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 耐えられない!

 耐えられるワケが無い!!

 そんな事になるくらいなら、いっそのこと――――!

 一瞬、栄太はギュッと目を閉じた。

 そうして苦しげな表情を浮かべながら、低い声で吉川へと問い掛ける。

「…………青柳は20時まで待つと言ったんだな? 」

「は、はい」

「そうか……」

 それなら、まだ時間はある。

 迷いを断ち切るためには、それ・・・はどうしても避けては通れない。

 栄太はそう確信すると、ゆっくりと重い腰を上げた。

「――――すまん。一度、出てくる」

「社長? 」

「時間までには、必ず戻ってくるから安心しろ。それまで引き続き、対応の方を頼む」

 栄太はそう言うと、意を決したように身を翻した。

   ◇

「奏、具合はどう? 」

「大丈夫です。お陰様で、大分落ち着きました。何から何まですみません、七海先輩」

「気にするなって」

 七海は穏やかに微笑みながら、ゆっくりと車椅子を移動させてカーテンを開ける。

 そうしながら、何気なく口火を切った。

「……あれから、奏の作っている新薬レシピを色々と検証してみたよ」

「えっ!? どうでしたか? 」

「一点を除き、ほぼ完成しているね。あれが認可されれば、もうオメガはヒートに困る事は二度とないだろう。実際、新薬を自分自身に投薬した奏は、本来なら発情期に入っていたのに、全く通常の生活を普通に送っていた。それが、最たる証拠さ。ずっと我々オメガを困らせていた飛ぶ・・・という現象は、もう終わるね」

「――良かった……」

 七海が言うのだから、間違いないだろう。

 ホッとする奏であるが、同時に、一点・・・だけあるという欠点に眉を顰める。

「…………あの新薬は、オメガフェロモンの発散までは、抑えられていなかったという事ですね」

「――――そうだね。その所為で、奏はアルファに襲われてしまった……」

 七海はそう呟くと、忌々しそうに舌打ちをした。

「まったく、何だって『番の上書き』なんか――――本当に、最低野郎だな」

「七海先輩……」

「オレは、相手の意思を無視して行為を強要する輩が大嫌いなんだ。だから、悪いけど、奏の運命だろうと何だろうと青柳正嘉は許せない」

 本当に立腹した様子で言う七海に、奏はフッと微笑む。

 それに気付き、七海は『ん? 』と首を傾げた。

「どうした? 」

「僕は、七海先輩が大好きですよ。こんなに僕の事を想ってくれているのって、実は七海先輩だけなんじゃないかなって思います」

「おいおい、奏の……番の馬淵栄太だって、奏の事を想ってくれているだろう? 」

 そう言うと、奏はそれまで浮かべていた笑顔を萎れさせ、俯いてしまった。

 その様子に、七海は車椅子を動かし、窓際から奏のベッド傍へと移動する。

「どうした? どこか具合が悪いのか? 」

「栄太さんは――――僕の事を、どのくらい好きなのかなって思って……」

「奏……」

「この『番の上書き』の事を知ったら、どう思うのかなって。……不安になって。こ、この前は――――シャツのボタンを一番上まで留めた状態で性交したので、この首の状態には気が付かなかったようだけど……」

 吐くほど具合が悪かったのも何もかも、どうにか誤魔化したのでまだ知られてはいないだろうが……もしも気付いてしまったら?

――――いいや、いつまでも隠し通せるはずがない。

 近い内に、必ずや知られてしまうだろう。

 その時、『番の上書き』を許すなどお前は何と破廉恥なんだと罵られては――――生きてはいられない。



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