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 彼女となら、ずっと一緒に居ても良いと思った。

 そうして、正嘉の成長を待って二人は婚姻する流れになったのだが――――。


『な、何をしているんだよ!? 』

『ふふふ……なぁにって、何ですの? 』

 彼女は、それまで正嘉が見た事の無い淫蕩な微笑みを浮かべて、連れ込んだ男の上に跨り、いやらしく腰をくねらせて股を開いて見せた。

『わたくし、ずっとこれが欲しかったのです。身体に悪いからと抑制剤も制限されて……たまったもんじゃありませんわ。だから、あなたのようなお子様、お呼びじゃなくてよ』

『オレは! お前の未来の番だって、先日――』

『そんなの、待てるワケないだろう! はははははっ』

 彼女は哄笑すると、再び腰を振り始めた。

『お前のようなガキは役立たずなんだよ! あたしが欲しいのは、今あたしの役に立つ棒だ! こいつが欲しいんだよ!! 』

 普段の、清楚な令嬢の顔はどこへやら。

 彼女は腰を振り乱して、男をとことん骨の髄まで味わおうとする淫獣と化していた。

 正嘉は、混乱した。

(君は……こっちの方が本性なのか? では、オレが好きになったのは、まやかしだったのか? インチキだったのか!? )

 目の前で展開する破廉恥な光景に言葉を失い、騒ぎを聞きつけた家人によって離されるまで――――正嘉は、茫然と立ち尽くしていた。


 正嘉は、発情したオメガの令嬢が自分以外の男を求めて股を開いているのを見て以来、オメガに対して恋愛感情を抱く事の無意味さを思い知った。

 そしてやはり、どのオメガ達も発情期に入ると我慢が利かなくなるのか、家人の目を盗んでは男を連れ込んでいるのが分かった。

 正嘉も一々それらにリアクションを返すのも嫌気が差し、必死に取り次ごうとする両家の関係者をも信用しなくなっていった。

 誰も彼も『正嘉が次々と令嬢を捨てている』と、表面上の事しか言わないが、本当の真相はそうだったのだ。

 表立って正嘉が何も言わない事を幸いに、正嘉を悪者に仕立て上げ、完全に自分の方が被害者なのだという顔をする……厚かましく世間の同情を集めるオメガ達。

 何と、不愉快で下劣な奴等であろうか。

 愛も恋も、全ては幻だ。

 何もかもが、嘘と打算に満ちた汚い感情に支配されている。

 現に、『運命の番』の奏でさえも、正嘉を選ばずに下等なベータを選択したではないか。

 実家の借金の肩代わりだか何だか知らないし興味もないが、正嘉こそが運命と分かっていながら、敢えて違う男を選んだ行いは間違いなく不貞だろう。


――――そうだ、あいつも破廉恥極まりないオメガなんだ。


 青ざめて意識を失った可憐な面差しを思い出すたびに、ズキリとした痛みが胸を走るが。しかし正嘉は、舌打ちをしつつも自分は『正しいのだ』と正当化する。

(オレが罪悪感を感じるいわれはないはずだ。オレは、絶対に間違っていない! あいつらの方が異常なんだ)

 しかし、本人の同意も得ずに『番の上書き』をした事は、やはり後味が悪いのは本当だ。

 だからせめて、奏が世話になったであろう、ベータの馬淵栄太の窮状を救ってやろうと考え付いた。

 今回、正嘉の所有する一部の土地が、都市開発計画の区画に入っていたのは本当に知らなかった。と、いうより、既に土地使用料で毎月一定額の収入があったので、売却は最初から『AOYANAGI・realtor』としては考えていなかったのだ。

 だから、馬淵に限らず、売買の話は全て門前払いで最初からシャットアウトしていた。

 しかし、どうやら今回の売買に応じなければ、馬淵コーポレーションは先行きが怪しいらしい。

 愚かな事に、馬淵はデベロッパーとしてギャンブル性の高い仕事を次々と行い、利ザヤを稼いでいたようだ。今回も、B駅に七割方決まったという情報を鵜呑みにして、先行投資としてマンションを建設したらしい。

 しかし今になってA駅の方が有力視され、相当進退窮まっているようだ。

 最初は、それこそ全くの他人なのだから放っておこうかと考えていたが――――奏の為ならば、今回は特別だ。


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