147 / 240
34
34-5
しおりを挟む
そう言うと、九条は「では、続きは帰ってから」と告げて電話を切った。
(……正嘉の考えが変化する、か……)
叶う事なら、そうあってほしいが。
重苦しい溜め息をつきながら、一枚だけサインが入った書類を、苦々しい気持ちで手に取る。
よりにもよって、恵美に対して接見禁止と記した、この書類にだけサインをするとは。
(ことごとく、こちらの想定を覆すリアクションだな。アルファのブランドに、もっと固執するタイプかと思っていたのだが)
九条家は、歴史ある名家である。
新参の部類に入る青柳家の若き当主としては、何とか此方へ擦り寄ろうとして、もっと食い下がるものと予想していた。
しかしその予想に反し、正嘉は委員会メンバーである事にはさほど固執していないし、恵美にも興味がないようだ。
オメガ男体である奏と家名を天秤に掛けて、どちらを選ぶのか――――単純に、後者を取ると思っていたのだが。
――――だが、あの様子では…………。
(頭の痛い問題だな……)
それに問題は、まだ山積みだ。
奏が正嘉によって無理やり『番』にされるより先に選んだ筈の、ベータの馬淵栄太である。
彼は現在馬淵コーポレーションのトップとして、かなり経営状況が厳しい場面に立たされているらしく、家にも帰らず会社に詰めているようだ。
奏の事はとても気掛かりに思っているようだが、だからといって、そう易々とプライベートを優先できる状況ではないらしい。
まさか自分が留守の間に、正嘉というアルファによって番の上書きが為された事など知る由もないだろう。
そして、奏のその体内に、どちらかの子種が着床したことも。
「匿うにしても……どちらにも、この事実は知らせない方がいいだろうな……」
果たしてどこまで隠し通せるものか。
こんな状況で、奏は本当に幸せになれるのだろうか?
(私は、七海の事だけでも頭がいっぱいなんだが……)
暗澹とした先行きに、九条はまた溜め息をついた。
(……正嘉の考えが変化する、か……)
叶う事なら、そうあってほしいが。
重苦しい溜め息をつきながら、一枚だけサインが入った書類を、苦々しい気持ちで手に取る。
よりにもよって、恵美に対して接見禁止と記した、この書類にだけサインをするとは。
(ことごとく、こちらの想定を覆すリアクションだな。アルファのブランドに、もっと固執するタイプかと思っていたのだが)
九条家は、歴史ある名家である。
新参の部類に入る青柳家の若き当主としては、何とか此方へ擦り寄ろうとして、もっと食い下がるものと予想していた。
しかしその予想に反し、正嘉は委員会メンバーである事にはさほど固執していないし、恵美にも興味がないようだ。
オメガ男体である奏と家名を天秤に掛けて、どちらを選ぶのか――――単純に、後者を取ると思っていたのだが。
――――だが、あの様子では…………。
(頭の痛い問題だな……)
それに問題は、まだ山積みだ。
奏が正嘉によって無理やり『番』にされるより先に選んだ筈の、ベータの馬淵栄太である。
彼は現在馬淵コーポレーションのトップとして、かなり経営状況が厳しい場面に立たされているらしく、家にも帰らず会社に詰めているようだ。
奏の事はとても気掛かりに思っているようだが、だからといって、そう易々とプライベートを優先できる状況ではないらしい。
まさか自分が留守の間に、正嘉というアルファによって番の上書きが為された事など知る由もないだろう。
そして、奏のその体内に、どちらかの子種が着床したことも。
「匿うにしても……どちらにも、この事実は知らせない方がいいだろうな……」
果たしてどこまで隠し通せるものか。
こんな状況で、奏は本当に幸せになれるのだろうか?
(私は、七海の事だけでも頭がいっぱいなんだが……)
暗澹とした先行きに、九条はまた溜め息をついた。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる