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茫然自失の状態で部屋に戻った奏は…………無意識に、ハンカチに残る正嘉の香りを嗅ぎ当て――――そして、知らぬ内に巣を作っていた。
幸いなのは、奏は、自分のその行動原理に気付いていなかった事だろう。
正嘉の残り香に反応し、意識せずに『巣』を作ったという事実を知らないまま、ただ奏は、呆然自失とその中央でうずくまっていたのだ。
そうして作り出した巣の中で、番以外の男と情を交わしたという不貞――――まるでそれを罰するかのように、奏の頭の中は、絶えずガンガンと割れ鐘が鳴っているようだ。
激しい痛みに、まともな思考も働かない。
意識も途切れそうになる。
それに、無理に栄太を受け入れた事で、壊れそうなこの体も休めたい。
今の奏が望むのは、安心できる場所を見つけて眠りに就きたいという、その一念だけになる。
(明日……今日? とにかく――――七海先輩に相談して、それから――)
思う傍から、疲れ果てていた奏は睡魔に襲われた。
それから少しの時間の後、栄太が戻って来て寝室のドアをそっと開けた。
「奏? 」
部屋の中からは、静かな寝息が聞こえてくる。
どうやら、栄太の大切な恋人は深い眠りに落ちたらしい。
揺り起こして、いったい何があったのか訊き出したいところではあるが、それを実行するのは余りに酷だろう。
とにかく、今は発情期間だ。
この期間中なら、幾らでも中出しをしても大丈夫のはずだ。
先程は奏の後孔に思いきり精を放ったが、オメガがヒートの状態であれば、それが原因で腹を壊す事はない。今の奏はオスではなくメスの身体になっている。
…………電話では、奏は先輩の力を借りて今度こそ受精できるかもと言っていた。
きっとそれで、期待しながら栄太をずっと待っていたのだろう。
なんて健気でいじらしい恋人なのだろうか。
自分は、本当に果報者だ――――と、栄太は一人で満足していた。
(奏の様子がおかしかったのは、きっとその先輩とのやり取りが関係していたんじゃないか?確か……七海達樹という、美人だがオレの苦手なタイプのオメガと、奏はずいぶん仲が良かった。先日改めて紹介された時には、あの七海は妙にオレに敵愾心を持っていたが……きっと、電話でヤツに何か言われたんだな? )
早く抱いてもらえとか――――それとも、やはりベータは止めておけとか?
その考えに至り、栄太は険しい表情になる。
(ベータだからといって、アルファより下に見られるのは我慢できない! 必ず会社を立て直して、世間の奴等を絶対に見返してやるっ!! )
栄太は、眉間にシワを寄せた険しい顔のままそう心に誓うが……寝室の様子を確認するとフッと苦笑し表情を和らげた。
せっかくベッドへ運んだのに、奏ときたら――――
「こんな所で眠ったら、風邪をひくぞ? 」
小さな声でそう言うと、栄太は改めて奏を抱え上げて、ベッドへと運んだ。
奏は、部屋の隅へ寄せた筈の衣類や寝具の上に丸まって、寝ていたのだった。
その手に、ハンカチをギュッと握りながら…………。
幸いなのは、奏は、自分のその行動原理に気付いていなかった事だろう。
正嘉の残り香に反応し、意識せずに『巣』を作ったという事実を知らないまま、ただ奏は、呆然自失とその中央でうずくまっていたのだ。
そうして作り出した巣の中で、番以外の男と情を交わしたという不貞――――まるでそれを罰するかのように、奏の頭の中は、絶えずガンガンと割れ鐘が鳴っているようだ。
激しい痛みに、まともな思考も働かない。
意識も途切れそうになる。
それに、無理に栄太を受け入れた事で、壊れそうなこの体も休めたい。
今の奏が望むのは、安心できる場所を見つけて眠りに就きたいという、その一念だけになる。
(明日……今日? とにかく――――七海先輩に相談して、それから――)
思う傍から、疲れ果てていた奏は睡魔に襲われた。
それから少しの時間の後、栄太が戻って来て寝室のドアをそっと開けた。
「奏? 」
部屋の中からは、静かな寝息が聞こえてくる。
どうやら、栄太の大切な恋人は深い眠りに落ちたらしい。
揺り起こして、いったい何があったのか訊き出したいところではあるが、それを実行するのは余りに酷だろう。
とにかく、今は発情期間だ。
この期間中なら、幾らでも中出しをしても大丈夫のはずだ。
先程は奏の後孔に思いきり精を放ったが、オメガがヒートの状態であれば、それが原因で腹を壊す事はない。今の奏はオスではなくメスの身体になっている。
…………電話では、奏は先輩の力を借りて今度こそ受精できるかもと言っていた。
きっとそれで、期待しながら栄太をずっと待っていたのだろう。
なんて健気でいじらしい恋人なのだろうか。
自分は、本当に果報者だ――――と、栄太は一人で満足していた。
(奏の様子がおかしかったのは、きっとその先輩とのやり取りが関係していたんじゃないか?確か……七海達樹という、美人だがオレの苦手なタイプのオメガと、奏はずいぶん仲が良かった。先日改めて紹介された時には、あの七海は妙にオレに敵愾心を持っていたが……きっと、電話でヤツに何か言われたんだな? )
早く抱いてもらえとか――――それとも、やはりベータは止めておけとか?
その考えに至り、栄太は険しい表情になる。
(ベータだからといって、アルファより下に見られるのは我慢できない! 必ず会社を立て直して、世間の奴等を絶対に見返してやるっ!! )
栄太は、眉間にシワを寄せた険しい顔のままそう心に誓うが……寝室の様子を確認するとフッと苦笑し表情を和らげた。
せっかくベッドへ運んだのに、奏ときたら――――
「こんな所で眠ったら、風邪をひくぞ? 」
小さな声でそう言うと、栄太は改めて奏を抱え上げて、ベッドへと運んだ。
奏は、部屋の隅へ寄せた筈の衣類や寝具の上に丸まって、寝ていたのだった。
その手に、ハンカチをギュッと握りながら…………。
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