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正嘉の期待する――――意識を飛ばして悶え苦しむような、通常のオメガ男体のヒート現象は起こっていない。
頭脳は正常で、完全にクリアーだ。
奏が今この場で、誰かの精を欲しがって破廉恥に振舞うような要素は、何一つしてなかった。
その身体からは強烈なフェロモンを発散してはいたが、奏本人には全く影響なく、平素のままだ。
奏は少し苛立った様子で正嘉を見ると、ツンと別れの言葉を口にする。
「あなたが、いったい何を言いたいのは分かりませんが――――とにかく僕は、これからタクシーを呼んで、栄太さんの……馬淵さんの所へ行ってみます。それでは今度こそ、失礼します」
奏はそう言うと、正嘉を無視して、ポケットから携帯電話を取り出しタクシーを呼ぼうとした。
このつれない仕草に、正嘉はさすがに動揺する。
これだけ甘い匂いをさせているのに、どうしてこのオメガは普通でいられるんだ?
こいつが男体の所為なのか?
いやしかし、何度か面白半分にオメガ男体を抱いた事もあるが、彼等も女体と同じだった。
普段のオメガは、澄ました顔をしてアルファやベータと同格であるような顔をしているが、いざ発情すると見も世もなく悶え苦しみ、場も選ばずに股を開いては他人の体液を欲しがる淫乱だ。
だからオメガとは、どうしようもないくらいにインチキで破廉恥な連中なのだと思っていたのに。
肝心の、正嘉の運命である筈のオメガは――――全く正嘉を欲しがっていない。
(何故だ? どうしてだ? オレの方が先に――――)
――――限界が、来そうだ。
「待て! 」
とうとう正嘉は、去ろうとする奏を自分から引き留めた。
本来なら、奏の方から縋って来るのを悠々と待っている筈だったのに。
忸怩たる思いに内心で苦虫を潰しながら、正嘉は言う。
「非常に不本意だが、お前はオレの運命の番だ」
「えっ? 」
「ならば、そんな甘い匂いをさせているお前を――――これ以上、放っておくことは出来ない」
正嘉はそう言うと、立ち去ろうとしていた奏の肩へと手を置いた。
「今のお前は、危険だ」
「――何の事ですか? 」
言葉の意味が分からず、戸惑う奏へ、正嘉は告げる。
「そんなに甘い匂いを放っていては、野獣のようなベータや教養のないアルファが襲い掛かっても不思議じゃない。本当に、自覚がないのか? 」
――――言っているこっちの方が、もう理性を失いかけているのに。
しかし奏は、本当に自覚など無い。
今の自分が、どんなに甘いフェロモンを放ち男を挑発しているかなど、全く知りようもない。
ただ不思議に思い、首を傾げるだけだ。
「さっきから一体、正嘉さまは何を仰っているのですか? 僕には理解出来ませんが…………」
「だから! 今のお前は、平凡で下らないオメガでありながら、どうしようもなく劣情を掻き立てる魔性な存在になってしまっているんだ。少しは、自覚を持て! 」
正嘉の指摘に、奏は呆気にとられる。
「え――? な、なんですか、それは? 」
奏は、今の自分がどんなに魅力的で蠱惑な雰囲気を醸しているかなど理解していない。
彼にとっては、自分は普段と何も変わらない、平凡で凡庸なオメガ男体だという自覚しか持ち合わせていない。
だから、正嘉が平静を装いながらも、どこか獰猛な雰囲気を纏い始めている事に不信感しか感じないのだ。
――――貞操の危機など、奏が感じ取る術もない。
戸惑うばかりの奏に向かい、正嘉は叱責するように言葉を発した。
「お前が、今呼ぼうとしているタクシーの運転手が、もしも下卑なベータやアルファだったらどうする気だ!? そのままお前はどこかに連れ込まれて、強姦され兼ねないのだぞ! 」
頭脳は正常で、完全にクリアーだ。
奏が今この場で、誰かの精を欲しがって破廉恥に振舞うような要素は、何一つしてなかった。
その身体からは強烈なフェロモンを発散してはいたが、奏本人には全く影響なく、平素のままだ。
奏は少し苛立った様子で正嘉を見ると、ツンと別れの言葉を口にする。
「あなたが、いったい何を言いたいのは分かりませんが――――とにかく僕は、これからタクシーを呼んで、栄太さんの……馬淵さんの所へ行ってみます。それでは今度こそ、失礼します」
奏はそう言うと、正嘉を無視して、ポケットから携帯電話を取り出しタクシーを呼ぼうとした。
このつれない仕草に、正嘉はさすがに動揺する。
これだけ甘い匂いをさせているのに、どうしてこのオメガは普通でいられるんだ?
こいつが男体の所為なのか?
いやしかし、何度か面白半分にオメガ男体を抱いた事もあるが、彼等も女体と同じだった。
普段のオメガは、澄ました顔をしてアルファやベータと同格であるような顔をしているが、いざ発情すると見も世もなく悶え苦しみ、場も選ばずに股を開いては他人の体液を欲しがる淫乱だ。
だからオメガとは、どうしようもないくらいにインチキで破廉恥な連中なのだと思っていたのに。
肝心の、正嘉の運命である筈のオメガは――――全く正嘉を欲しがっていない。
(何故だ? どうしてだ? オレの方が先に――――)
――――限界が、来そうだ。
「待て! 」
とうとう正嘉は、去ろうとする奏を自分から引き留めた。
本来なら、奏の方から縋って来るのを悠々と待っている筈だったのに。
忸怩たる思いに内心で苦虫を潰しながら、正嘉は言う。
「非常に不本意だが、お前はオレの運命の番だ」
「えっ? 」
「ならば、そんな甘い匂いをさせているお前を――――これ以上、放っておくことは出来ない」
正嘉はそう言うと、立ち去ろうとしていた奏の肩へと手を置いた。
「今のお前は、危険だ」
「――何の事ですか? 」
言葉の意味が分からず、戸惑う奏へ、正嘉は告げる。
「そんなに甘い匂いを放っていては、野獣のようなベータや教養のないアルファが襲い掛かっても不思議じゃない。本当に、自覚がないのか? 」
――――言っているこっちの方が、もう理性を失いかけているのに。
しかし奏は、本当に自覚など無い。
今の自分が、どんなに甘いフェロモンを放ち男を挑発しているかなど、全く知りようもない。
ただ不思議に思い、首を傾げるだけだ。
「さっきから一体、正嘉さまは何を仰っているのですか? 僕には理解出来ませんが…………」
「だから! 今のお前は、平凡で下らないオメガでありながら、どうしようもなく劣情を掻き立てる魔性な存在になってしまっているんだ。少しは、自覚を持て! 」
正嘉の指摘に、奏は呆気にとられる。
「え――? な、なんですか、それは? 」
奏は、今の自分がどんなに魅力的で蠱惑な雰囲気を醸しているかなど理解していない。
彼にとっては、自分は普段と何も変わらない、平凡で凡庸なオメガ男体だという自覚しか持ち合わせていない。
だから、正嘉が平静を装いながらも、どこか獰猛な雰囲気を纏い始めている事に不信感しか感じないのだ。
――――貞操の危機など、奏が感じ取る術もない。
戸惑うばかりの奏に向かい、正嘉は叱責するように言葉を発した。
「お前が、今呼ぼうとしているタクシーの運転手が、もしも下卑なベータやアルファだったらどうする気だ!? そのままお前はどこかに連れ込まれて、強姦され兼ねないのだぞ! 」
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