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奏のその疑問が心外だったのか、正嘉は少し表情を曇らせた。
「…………色々と、調べさせてもらった。あの女が勝手な事をして、随分とお前に迷惑を掛けたようだな」
その女がいったい誰の事を指しているのか分かり、奏は戸惑う。
婚約者に対して、それはかなり冷たい言い様に感じる。
「――――九条恵美さんの事ですか? 」
念のために訊くと、正嘉は『そうだ』と返した。
「お前に石を投げ付けたり、罵声を浴びせたりしたそうだな、あの女」
「……ええ…………でも、それは――」
『もう済んだことですから』と、そう続けようとしたところ、
「だからそれを、謝ろうと思ってな」
と、正嘉は本当に意外な事を口にした。
一瞬の間をおいて、奏は動揺を深める。
「あ、謝る? あなたが、僕にですか? 」
今まで、何があっても一切謝罪する事は無かったのに。
さすがに今回は――――正嘉も二十歳の若者に成長した事で、考えが大人になったのか?
確かに、恵美が暴走した理由は、正嘉にこそ起因している。
だから、わざわざこうして謝罪しに訪れたのだろうか……?
「い、いえ――――そんな。本当に、もう結構です。九条理事からも謝罪の言葉を頂きましたから……」
戸惑いながらもそう言ったところ、正嘉はスッと背後を振り返った。
その視線の先を追い、奏はギョッとする。
面差しが兄の凛とよく似ていたので、一目で分かった。
そこには――――悄然とした様子で立ち尽くす、九条恵美が居た。
「え、恵美さん……ですよね? 何でここに――」
すると、消え入りそうな細い声が返って来た。
「…………ごめん、なさい…………」
いつぞやの、鬼女のように猛々しい声ではない。
それは本当に、か弱く頼りない声だった。
「恵美さん――」
奏は動揺しながら、彼女をここまで連れて来たらしい正嘉を見遣る。
「し、正嘉さま…………あの、謝ると言うのは――――」
「ああ、だから、あの女に謝らせようとな。何を勘違いしたのか、勝手に妄想を膨らませてお前を攻撃したんだろう? まったく、迷惑もいいところだ」
「――」
「お嬢様育ちで夢のような話ばかりを信じる女だ。まったく、バカな事だ。オレが本命を作らない理由をいいように作り出して、それを信じ込んでいたらしい。オレの母親がオメガ男体だった事も勝手に調べて同情して――――本当に女というのは、手に負えない馬鹿者ばっかりだな」
正嘉は、よく通る美声で音量を絞る事もせずにそう言い切った。
奏によく聞こえたように、その言葉は恵美の耳にも確実に聞こえた筈だ。
あまりの言いように、奏の方が動揺する。
「しょ、正嘉さま! そのような事を御本人の前で仰るのは――」
「ん? だが、本当の事だろう? 」
確かに、本当の事だ。正嘉の言っている事は正しい。
しかしだからといって、それを口に出して言うのは間違っているだろう。
第一、本当に悪いのは――――。
「――――恵美さんが今回僕に行った事は、確かに褒められるような事ではないですが…………でも、その原因を作ったのは正嘉さまでしょう? 」
奏の指摘に、正嘉は不愉快そうな顔をした。
美しい彫刻のような柳眉をキュッと歪め、黒い宝石のような瞳に苛立ちの光を灯す。
「―――なに? 」
「今回の事は、あなたにこそ原因があるのではないですか? あなたが誤解されるような態度を取ったから、彼女が不安になってしまったのでしょう? 」
勇気を振り絞り、奏は至近距離で正嘉をキッと睨む。
「恵美さんが僕に謝るのなら、あなたも僕に謝罪するのが筋なんじゃないですか? 」
すると、正嘉はにべもなく言い切った。
「オレは無関係だ」
「そ、そんな――――だって……」
「…………色々と、調べさせてもらった。あの女が勝手な事をして、随分とお前に迷惑を掛けたようだな」
その女がいったい誰の事を指しているのか分かり、奏は戸惑う。
婚約者に対して、それはかなり冷たい言い様に感じる。
「――――九条恵美さんの事ですか? 」
念のために訊くと、正嘉は『そうだ』と返した。
「お前に石を投げ付けたり、罵声を浴びせたりしたそうだな、あの女」
「……ええ…………でも、それは――」
『もう済んだことですから』と、そう続けようとしたところ、
「だからそれを、謝ろうと思ってな」
と、正嘉は本当に意外な事を口にした。
一瞬の間をおいて、奏は動揺を深める。
「あ、謝る? あなたが、僕にですか? 」
今まで、何があっても一切謝罪する事は無かったのに。
さすがに今回は――――正嘉も二十歳の若者に成長した事で、考えが大人になったのか?
確かに、恵美が暴走した理由は、正嘉にこそ起因している。
だから、わざわざこうして謝罪しに訪れたのだろうか……?
「い、いえ――――そんな。本当に、もう結構です。九条理事からも謝罪の言葉を頂きましたから……」
戸惑いながらもそう言ったところ、正嘉はスッと背後を振り返った。
その視線の先を追い、奏はギョッとする。
面差しが兄の凛とよく似ていたので、一目で分かった。
そこには――――悄然とした様子で立ち尽くす、九条恵美が居た。
「え、恵美さん……ですよね? 何でここに――」
すると、消え入りそうな細い声が返って来た。
「…………ごめん、なさい…………」
いつぞやの、鬼女のように猛々しい声ではない。
それは本当に、か弱く頼りない声だった。
「恵美さん――」
奏は動揺しながら、彼女をここまで連れて来たらしい正嘉を見遣る。
「し、正嘉さま…………あの、謝ると言うのは――――」
「ああ、だから、あの女に謝らせようとな。何を勘違いしたのか、勝手に妄想を膨らませてお前を攻撃したんだろう? まったく、迷惑もいいところだ」
「――」
「お嬢様育ちで夢のような話ばかりを信じる女だ。まったく、バカな事だ。オレが本命を作らない理由をいいように作り出して、それを信じ込んでいたらしい。オレの母親がオメガ男体だった事も勝手に調べて同情して――――本当に女というのは、手に負えない馬鹿者ばっかりだな」
正嘉は、よく通る美声で音量を絞る事もせずにそう言い切った。
奏によく聞こえたように、その言葉は恵美の耳にも確実に聞こえた筈だ。
あまりの言いように、奏の方が動揺する。
「しょ、正嘉さま! そのような事を御本人の前で仰るのは――」
「ん? だが、本当の事だろう? 」
確かに、本当の事だ。正嘉の言っている事は正しい。
しかしだからといって、それを口に出して言うのは間違っているだろう。
第一、本当に悪いのは――――。
「――――恵美さんが今回僕に行った事は、確かに褒められるような事ではないですが…………でも、その原因を作ったのは正嘉さまでしょう? 」
奏の指摘に、正嘉は不愉快そうな顔をした。
美しい彫刻のような柳眉をキュッと歪め、黒い宝石のような瞳に苛立ちの光を灯す。
「―――なに? 」
「今回の事は、あなたにこそ原因があるのではないですか? あなたが誤解されるような態度を取ったから、彼女が不安になってしまったのでしょう? 」
勇気を振り絞り、奏は至近距離で正嘉をキッと睨む。
「恵美さんが僕に謝るのなら、あなたも僕に謝罪するのが筋なんじゃないですか? 」
すると、正嘉はにべもなく言い切った。
「オレは無関係だ」
「そ、そんな――――だって……」
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