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「だ、だからと言って、あなたの罪が帳消しになると思っているんですか!? 僕は――僕はっ! 七海先輩が包帯だらけになってベッドで機器に繋がれている状態を見た時は、胸が潰れる程ショックだったんだ! 本当はあなたが犯人だったのに、僕はそれを知らずに仲間と一緒に悲しみに暮れて――――七海先輩の友人だと思っていたのに、バカみたいにあなたにすがって! 」

 何も知らずに自分を慕っていた筈の奏が、ここのところ刺す様な視線を送るようになっていたので、ヤンは「ああ、やはり君は知っていたんですね」と息を吐いた。

「……そうです。私は、自分のよこしまな感情に負けて、人を使って七海に暴行してしまいました。それなのに、あなた方は純粋に私を慕ってきて――――それがずっと、私は心苦しかったです。私は、薄汚いユダです……! 」

 そう言うと、ヤンは力なく項垂れた。

「……証拠の映像は、九条が保管しています。それを以って、警察へ私を突き出してください……」

 その悄然とした様子に、奏は何と言っていいのか分からず、九条へ視線を向けた。

 だが、その九条もまた、ヤンに対しどうリアクションをすればいいのか分からず途方に暮れる。

 恋する七海を傷付けた、許せない相手の筈だが――――その凶行に及んだ理由が己に起因している事を知っているだけに、九条はヤンを芯から憎めないでいるのだ。

「ヤン――私は……君の気持は分かっているが――――」

 次の言葉が見付からず、戸惑う九条。

 だが、奏はやはり納得できない。

 大好きな七海を傷付け、こんな状態にするなんて――――。

「僕は、あなたを許せません! 七海先輩を傷付け、僕達をあざむいた罪は償ってもらいます。それでいいですよね、理事長? 」

「――」

「あなたも、長きに渡って僕達に親子共々犯人扱いされて迷惑だったハズです。このヤン助教が諸悪の根源なんですよ? 絶対に、許せない筈でしょう!? 」

「私は……」

 だが、激高する奏を宥めたのは、意外にも七海本人だった。

「――カナデハ、ジュンスイダナ。ダケド、リクツダケジャナイ、ヒトニハ、ドウニモナラナイカンジョウガアルンダヨ」

「な――七海先輩……」

 こんな目に遭わされて、悔しくないの? 

 そう強く思い、ここはヤンを糾弾するのが筋だと説得しそうになるが――。

「カナデハ、ナットクデキナイカ。デモ、オレハ――ヤンヲ、ニクンデナイ」

「そ、そんな! 」

 何とか言ってくれと、奏は九条を振り返るが……その九条もまた言うべき言葉が見付からず、ただ困惑するしかない。

 今、この病室の中で、怒りに燃えているのは奏だけだった。

 その事に、誰よりも奏が驚愕する。

(ど、どうして!? 七海先輩も理事長も本当に悔しくないの? 憎くないの? どうして、誰も怒らないの!? )

 奏だけが、どうにもならない感情に振り回されて、自然と涙が零れた。

「僕は……本当に、本当に苦しくて怖くて――な、七海先輩が、ずっとこのままだったら……もう、誰を頼ればいいのか……それを考えると、眠れないくらいに悩んで……僕、僕はっ」

「――奏くん……」

 九条が何か言い掛けるが、それより先に合成された『声』の方が早かった。

「クジョウ、ヤン。カナデト、フタリダケニシテクレナイカ」

 七海の頼みに戸惑うが、今は従うべきだろう。第一、奏に何と声を掛ければいいのかも九条は分からないのだから。

「――――分かった。ヤン、行こう」

 九条はそう呟き、項垂れたままのヤンを促す。

 その後ろに付き従うように、看護師と医師も揃って退室した。

 そうして二人きりになった所で、七海は奏を手招く。

――とはいっても、指を微かに動かしてジェスチャーをするのが、今は精一杯だったが。

「カナデ、チカクニキテ」

「はい」

「カオ、ミセテ。アイカワラズ、ナキムシ」

「七海先輩……」

 七海の言葉が嬉しくて、奏は瞳を潤ませたままグッと顔を寄せる。

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