101 / 240
27
27-1
しおりを挟む「――――怒ってないか? 」
「え? 」
「いや……自分でも、マンションを買ったのは――ちょっと強引だったかなと反省していたんだ。業者も、お前の様子は…………」
ゴホンと咳払いしながら、ポツリと言う。
「……どうもイマイチ、嬉しいようではなかったと報告して来たし」
栄太の言葉に、奏は苦笑を返した。
そして、少しだけ頬を膨らませて抗議をする。
「そうですね! 急に引っ越し業者から『本日作業に入りますが何時に伺いますか? 』なんて連絡が研究所へ来たから、本当に困りましたよ。栄太さんは、ちょっと我が儘なんじゃないですか? 」
「…………すまん」
肩を落として謝罪する栄太を横目に、奏はフフっと微笑む。
「……でも、僕の事をそれだけ真剣に考えて、心配してくれたんでしょう? だったらしょうがない、許しますよ」
そう言いながら、奏は少しだけ甘えるように、グラス同士をカチンと触れさせる。
すると、栄太は『おっ』と目を見開いた。
◇
ここは、先週とはまた場所を変えて、落ち着いた雰囲気のイタリアンである。
気取らない隠れ家的なトラットリアの、ひっそりとした個室で、2人は穏やかに食事を楽しんでいた。
……先週は、どこかギクシャクとしていた空気が、今日はとても穏やかだ。
その事に、栄太は少し戸惑う。
「――――何か、良い事でもあったのか? 」
「え? 」
「マンションの件で機嫌がいい訳ではないんだろう? 」
「……」
「先週は、何だかビクビクしていたようだったが……今日は、随分と雰囲気が明るいぞ」
栄太の疑問に、奏は苦笑を返す。
先週は、確かに緊張してギクシャクしていた。
いつ、栄太の口から『番になってほしい』という言葉が飛び出してくるのか?
それとも、栄太はそんな事まで考えてはくれていないのか?
奏は、真剣に付き合う以上は番になるのが当たり前だと信じていたのだが、それは、奏の独り善がりな考えに過ぎないのだろうか?
栄太には、奏以外の愛人が、今も他所にいるのか?
そして子供は?
――――挙句に、研究員を辞めろやめないで軽いイザコザもあった。
奏がアパートを同僚とシェアしていると聞くと、栄太は、早急にマンションを用意するから直ぐに部屋を引き払えと言い出し、それでもまた揉めた。
せっかくの二度目のデートであったのに、散々だった。
奏はかなり緊張してしまい、正直に言うと全く楽しくなかった。
しかし、今日は…………。
「ふふふ……」
小さく笑い、奏はグラスに口を付ける。
今日は、先週と違い、色々な情報を仕入れている。
――――まず、一つは……。
「奏……オレはお前に、謝らないといけない事がある」
「え? 」
顔を上げると、栄太が真剣な顔で見返してきた。
そうして彼は、無念そうな表情になって口を開く。
「……本当は、お前に子供を持たせてやりたかったんだ。一歳になったばかりだから、丁度いいと思っていたんだが――母親が、最後まで離してくれなかった……すまない……」
ああ、やっぱりだ。
予想通り、あなたはそんな事を考えていたんですね。
奏はそう思うと、またニッコリと微笑んだ。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
好きな子が毎日下着の状態を報告してくるのですが正直脈ありでしょうか?〜はいてないとは言われると思いませんでした〜
ざんまい
恋愛
今日の彼女の下着は、ピンク色でした。
ちょっぴり変態で素直になれない卯月蓮華と、
活発で前向き過ぎる水無月紫陽花の鈍感な二人が織りなす全力空回りラブコメディ。
「小説家になろう」にて先行投稿しております。
続きがきになる方は、是非見にきてくれるとありがたいです!
下にURLもありますのでよろしくお願いします!
https://ncode.syosetu.com/n8452gp/
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる