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 もしも、それを訊いて――――そんな事は考えていないと言われたら?

 何をバカなと一笑いっしょうされて、ただの恋人で充分ではないかと言われたら、どうすればいいのだろう。

『そうですよね』

 奏も笑って、そう言えばいいのだろうか?

 それとも、正直に……恋人となるのならば、僕は正式に番になりたいと言えばいいのだろうか? 

 確かに、番にならないままに子供だけ設けるペアも多いが……。

 分からない。

 何が正解なのだろうか?

 それに、栄太に居るであろう他所の愛人は? 子供はいるのか? 

 踏み込んで、それを訊いていいのか、悪いのか?

(ああ――栄太さんと向き合う気もなかった、少し前の僕だったら、こんな事考えもしなかったし悩みもしなかったのに)

 いざ、真剣に付き合う事にしようか――――そう決心を固めようとした今になって、この根幹で躓くとは。

(今日は――――栄太さんから……番になろうと、申し込まれると思っていたのに――)

 今のところ、栄太にその動きはない。

 栄太から指輪をもらってはいるが、それだけで番の契約になるワケがない。

――――首の後ろを噛んでもらい、そこで晴れて番となるのだから。

 躊躇ためらいながら、奏は口を開く。

「栄太さん……あの……」

「ん? どうした? 」

「――――つ、つが――」



――――トゥルル・トゥルル



 そこで、栄太の電話が鳴った。

「ああ、すまない。ちょっと――」

「あ、どうぞ! お構いなく」

 ちょっとホッとして、奏は、電話を優先するように微笑む。

 栄太は『申し訳ない』というように軽く頭を下げると、電話を手に席を外した。

 奏はそれを見遣りながら、深く息を吐く。

(良かった……思わず言ってしまいそうになった――)

 こちらからこういった話題を口にするのは、とてもはしたない事だ。

 ひどく、みっともない事だ。

 決して、こちらから催促するような事を言ってはならない。

 あるじの寵愛が冷めないように、いつも愛らしく微笑み、控え目を心掛け常に一歩下がって仕えなければ。

 そう繰り返し、強く教育された――――と思い、そこでハッとする。

(ああ、そうだ……アルファの正嘉さまに嫁ぐのだから、相応しくあれと散々教育されたんだ。僕は……未だにあの時の言い付けを守っているのか……)

 何と滑稽な事だろう。

 結城家で受けた、呪いのような教育は奏の中に根付き、完全に彼の世界観を支配している。

(もっと、自由に――思ったことを色々喋ってもいいんだろうか? )

――――嫌われないか? 愛想をつかれないか? 

 意地汚いオメガだと侮蔑され、去られるのではないか?

 やはりその可能性を考えると、どうしても怖くなってしまう。

 奏は……栄太の事を、徐々に好きになって来ているから。

 その矢先に、嫌われて背を向けられるのは耐えられない。

 先週、栄太はとても優しく接してくれた。

 そして優しく、愛撫してくれた……。

 初めての時の恐怖と苦痛を思い出して委縮する体と心を、根気強くかしてくれた。

 奏は――――とても恥ずかしかったが、それ以上に幸せな気分を味わった。

 今、余計なことを言って、あの時の思い出に泥を塗りたくない。

 奏は…………愛される、幸せなオメガのままでいたいのだ。

(やっぱり、ダメだよ……番いになる気はあるのかなんて、こっちから訊いたら……重い奴だと思われたり、焦っているって受け取られて、嫌われてしまうかもしれないじゃないか)

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