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「ご、ごめんなさい。今のはちょっと、言い方が悪かったです」
――――このままでは、また正嘉の時のように嫌われてしまう。
奏はすっかり委縮しながら、しどろもどろに言い募る。
「つ、つまり――僕がしている研究は、アルファフェロモンの呪縛からオメガを救う研究なんです。発情というアレルギー反応さえ起こさなければ、僕たちは救われますから。もう二度と、嫌らしい淫乱だと世間から唾棄されずに済むんです」
「――」
「栄太さんも、嫌じゃないですか? どんなにオメガと愛を交わして番いになったとしても、アルファがふらりと現れて『番いの上書』をすれば、あっさりとそのオメガはアルファの手に堕ちるんですから。今まで、それが原因の裁判や、刃傷沙汰の事件も何度も起こっているのを、知っているでしょう? 」
奏は過去の事件を持ち出し、栄太を説得する。
「結局、裁判ではベータ側は全敗しているし――――今の、アルファ上位の世論を打ち破る為にも、まずはアルファから僕たちオメガを守る――」
「ああ、分かった分かった」
栄太はそう言うと、ふうと溜め息をついて、グラスをテーブルへ置いた。
「…………確かに、奏の言う通りだな。アルファの連中ときたら、鼻持ちならない奴等ばかりだ。自分達が誘えば、オメガはいつでも発情して自分達のモノになると信じ切っていやがる。あいつらの鼻を明かしてやれるなら、痛快だ」
誘ってもオメガがヒートしないとなれば、ヤツらはどういう顔をするのか。
愕然とするか、驚愕するか――――絶望するか?
それを考えると、栄太も愉快な気分になれた。
ベータの栄太は義兄弟がアルファ故に、根深い恨みが心の中に蓄積されていた。
「じゃあ、奏の研究の成果が、早く実る事を応援するとしよう」
これに、奏はホッとして胸を撫で下ろした。
「ありがとうございます。頑張ります」
「しかし――――研究は続けてもいいが、住まいの件は別だ。マンションは研究所の近くに用意してやるから、ルームシェアは止めるんだ」
「そ、そんな――」
栄太の譲らぬ態度に、奏は困惑した。
「僕は、今の生活を気に入っていますし、不自由もしていません。それに、シャアしている仲間には、僕が研究所へカンヅメになってしまう時とか、僕の代わりに部屋の掃除とかゴミ出しとかをやってもらっているし――」
「ああ、それならハウスキーパーを手配してやるよ。気兼ねしなくて済むし、うん、それがいいな。任せておけ」
「栄太さんっ」
「遠慮はするな。お前はオレの大切な恋人だ。そんな貧乏人のような暮らしは決してさせない」
「貧乏人なんて――」
「オレはベータだが、アルファなんかには決して負けない。絶対に、お前にあいつら以上のいい暮らしをさせてやる」
「栄太さん……」
栄太は次々と自分の意見を固めると、満足したように頷いている。
奏はそれを、困惑しながら見ていた。
どうやら栄太は、相当アルファにコンプレックスを持っているらしい。
それは、彼の生い立ちを知った今なら理解できる。
だがそれを、奏にまで当て嵌めるのは少々困る。
(僕は……いい暮らしとかよりも……好きな人と一緒に、暖かい家庭を築いて行きたいのに――)
聞く耳を持たない様子の栄太に、奏はどう説得したらいいのかと戸惑うばかりだ。
栄太が、傲岸不遜なばかりではないというのは分かっているが、でも……。
(ああ、そうだよ! それに肝心の事を、まだ僕は聞いていないじゃないかっ! )
その事に思い至り、奏は上目遣いで栄太を見遣る。
果たして栄太は、奏と番いたいと――――思っていてくれて、いるのだろうか?
「あの、栄太さん……」
「ん? 」
「栄太さんは――」
『僕と番いになってくれるんですか? 』
それを訊こうとするが、どうしても口が動かない。
――――怖いのだ。
――――このままでは、また正嘉の時のように嫌われてしまう。
奏はすっかり委縮しながら、しどろもどろに言い募る。
「つ、つまり――僕がしている研究は、アルファフェロモンの呪縛からオメガを救う研究なんです。発情というアレルギー反応さえ起こさなければ、僕たちは救われますから。もう二度と、嫌らしい淫乱だと世間から唾棄されずに済むんです」
「――」
「栄太さんも、嫌じゃないですか? どんなにオメガと愛を交わして番いになったとしても、アルファがふらりと現れて『番いの上書』をすれば、あっさりとそのオメガはアルファの手に堕ちるんですから。今まで、それが原因の裁判や、刃傷沙汰の事件も何度も起こっているのを、知っているでしょう? 」
奏は過去の事件を持ち出し、栄太を説得する。
「結局、裁判ではベータ側は全敗しているし――――今の、アルファ上位の世論を打ち破る為にも、まずはアルファから僕たちオメガを守る――」
「ああ、分かった分かった」
栄太はそう言うと、ふうと溜め息をついて、グラスをテーブルへ置いた。
「…………確かに、奏の言う通りだな。アルファの連中ときたら、鼻持ちならない奴等ばかりだ。自分達が誘えば、オメガはいつでも発情して自分達のモノになると信じ切っていやがる。あいつらの鼻を明かしてやれるなら、痛快だ」
誘ってもオメガがヒートしないとなれば、ヤツらはどういう顔をするのか。
愕然とするか、驚愕するか――――絶望するか?
それを考えると、栄太も愉快な気分になれた。
ベータの栄太は義兄弟がアルファ故に、根深い恨みが心の中に蓄積されていた。
「じゃあ、奏の研究の成果が、早く実る事を応援するとしよう」
これに、奏はホッとして胸を撫で下ろした。
「ありがとうございます。頑張ります」
「しかし――――研究は続けてもいいが、住まいの件は別だ。マンションは研究所の近くに用意してやるから、ルームシェアは止めるんだ」
「そ、そんな――」
栄太の譲らぬ態度に、奏は困惑した。
「僕は、今の生活を気に入っていますし、不自由もしていません。それに、シャアしている仲間には、僕が研究所へカンヅメになってしまう時とか、僕の代わりに部屋の掃除とかゴミ出しとかをやってもらっているし――」
「ああ、それならハウスキーパーを手配してやるよ。気兼ねしなくて済むし、うん、それがいいな。任せておけ」
「栄太さんっ」
「遠慮はするな。お前はオレの大切な恋人だ。そんな貧乏人のような暮らしは決してさせない」
「貧乏人なんて――」
「オレはベータだが、アルファなんかには決して負けない。絶対に、お前にあいつら以上のいい暮らしをさせてやる」
「栄太さん……」
栄太は次々と自分の意見を固めると、満足したように頷いている。
奏はそれを、困惑しながら見ていた。
どうやら栄太は、相当アルファにコンプレックスを持っているらしい。
それは、彼の生い立ちを知った今なら理解できる。
だがそれを、奏にまで当て嵌めるのは少々困る。
(僕は……いい暮らしとかよりも……好きな人と一緒に、暖かい家庭を築いて行きたいのに――)
聞く耳を持たない様子の栄太に、奏はどう説得したらいいのかと戸惑うばかりだ。
栄太が、傲岸不遜なばかりではないというのは分かっているが、でも……。
(ああ、そうだよ! それに肝心の事を、まだ僕は聞いていないじゃないかっ! )
その事に思い至り、奏は上目遣いで栄太を見遣る。
果たして栄太は、奏と番いたいと――――思っていてくれて、いるのだろうか?
「あの、栄太さん……」
「ん? 」
「栄太さんは――」
『僕と番いになってくれるんですか? 』
それを訊こうとするが、どうしても口が動かない。
――――怖いのだ。
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