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「でも、君はオメガだ」

「っ!  」
「発情期の期間中は、どうしていた? 不要な外出などして、不特定多数の人間が行き交う街へ出たりはしなかったか? 」

「そんなっ」

「本人にその気がなくても――――また、普段は大して魅力的でなくても、発情期のオメガは、ベータやアルファにとってはとても扇情的で魅惑的な獲物に変わるんだよ」

 九条の言い分にカッとして、奏は口を開いた。

「僕だって、それくらい知っています! だから、発情期が近付いてきたら外出は控えていたし、時期に入ったら栄太さんとホテルに……」

 思わず口を滑らせてしまった。

 ハッとして口を噤んだが、相手にはもう聞こえている。

「『栄太』? 」

「――――僕の…………ベータの婚約者です……」

 これに、チラリと、九条は奏の首へ視線を向ける。

「しかし、まだ番の契約はしていない? 」

「……はい……」

「そういう曖昧なところが、付け込まれるのではないか? 『まだ自分にも可能性はある』と、勝手にどこかのベータにでも期待されて嫉妬されたとは考えないか? 」

「で、でも! 僕に誰かが片思いして、それで嫉妬したという発想の方が飛躍してませんか? だいたい、僕には全然心当たりはありませんよ」

 そうだ。

 普段の奏は、見た目も性格も地味な方だ。オメガの男体は美形が多いというのに、その中にあって、奏は非常に目立たない存在である。

 唯一の個性は、首の酷い傷跡と優秀な頭脳くらいだ。

 こんなものが、人を惹きつけるとは思えない。

 だから奏はこれまで、告白も何も、された事な一度も無い。

 馬淵栄太は、特殊な例だろう。

 こんな地味な奏を、可愛いだの愛しているだのと言うなんて……本当に珍しい男だ。

 子供も、どうでもいいとまで言ってくれるとは……。

 そこで奏は思い至った。

 かつて栄太にも言った事があるではないか!

 どうしてそれ・・・を忘れていたのか。


(そうだ――――栄太さんは、僕の他にも何人かオメガを囲っていたんだ! )


『あなたは自分のDNAを持つ子供が欲しいだけ。なら当然、僕の他にも、複数の愛人がいる筈ですよね? 』

『――――それが、悪いか? 』

『いいえ、それで結構です。オメガの男体である僕一人を囲うなんて酔狂なマネ、あなたのような賢い人がする筈ありませんし』


 五年前の会話を思い出し、一気に血の気が引いた。

(え、栄太さんは……その時の愛人を、今はどうしているんだろう? )

 愛人との間に、子供はいるのか? 

 奏は、てっきり番になろうと……栄太から告白されるのだろうと思っていたが――――栄太は、奏と番になる気はあるのか?

 番の契約を結んでしまったら、他に伴侶を持つことは法律で不可能になる。

 だから、誰もが滅多に番になろうとしないのだ。


 栄太は、どうするのだろう?


 奏は――――心を決めようとしていたのだが……。

「……大丈夫かい? なんだか、とても顔色が悪いが……」

「え? 」

「ひどい顔色だ。急に真っ青になって――――何か、心当たりがあったのかい? 」

「え……あ、えぇ……」

 奏は何とか言葉を返した。

(もしかしたら――――栄太さんの愛人が、僕に……? )

 それなら、辻褄が合う。

 馬淵栄太の心を捉えた奏へ、彼の愛人が憎悪を向けたのなら……充分説明がつく。

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