71 / 240
21
21-5
しおりを挟む
「でも、君はオメガだ」
「っ! 」
「発情期の期間中は、どうしていた? 不要な外出などして、不特定多数の人間が行き交う街へ出たりはしなかったか? 」
「そんなっ」
「本人にその気がなくても――――また、普段は大して魅力的でなくても、発情期のオメガは、ベータやアルファにとってはとても扇情的で魅惑的な獲物に変わるんだよ」
九条の言い分にカッとして、奏は口を開いた。
「僕だって、それくらい知っています! だから、発情期が近付いてきたら外出は控えていたし、時期に入ったら栄太さんとホテルに……」
思わず口を滑らせてしまった。
ハッとして口を噤んだが、相手にはもう聞こえている。
「『栄太』? 」
「――――僕の…………ベータの婚約者です……」
これに、チラリと、九条は奏の首へ視線を向ける。
「しかし、まだ番の契約はしていない? 」
「……はい……」
「そういう曖昧なところが、付け込まれるのではないか? 『まだ自分にも可能性はある』と、勝手にどこかのベータにでも期待されて嫉妬されたとは考えないか? 」
「で、でも! 僕に誰かが片思いして、それで嫉妬したという発想の方が飛躍してませんか? だいたい、僕には全然心当たりはありませんよ」
そうだ。
普段の奏は、見た目も性格も地味な方だ。オメガの男体は美形が多いというのに、その中にあって、奏は非常に目立たない存在である。
唯一の個性は、首の酷い傷跡と優秀な頭脳くらいだ。
こんなものが、人を惹きつけるとは思えない。
だから奏はこれまで、告白も何も、された事な一度も無い。
馬淵栄太は、特殊な例だろう。
こんな地味な奏を、可愛いだの愛しているだのと言うなんて……本当に珍しい男だ。
子供も、どうでもいいとまで言ってくれるとは……。
そこで奏は思い至った。
かつて栄太にも言った事があるではないか!
どうしてそれを忘れていたのか。
(そうだ――――栄太さんは、僕の他にも何人かオメガを囲っていたんだ! )
『あなたは自分のDNAを持つ子供が欲しいだけ。なら当然、僕の他にも、複数の愛人がいる筈ですよね? 』
『――――それが、悪いか? 』
『いいえ、それで結構です。オメガの男体である僕一人を囲うなんて酔狂なマネ、あなたのような賢い人がする筈ありませんし』
五年前の会話を思い出し、一気に血の気が引いた。
(え、栄太さんは……その時の愛人を、今はどうしているんだろう? )
愛人との間に、子供はいるのか?
奏は、てっきり番になろうと……栄太から告白されるのだろうと思っていたが――――栄太は、奏と番になる気はあるのか?
番の契約を結んでしまったら、他に伴侶を持つことは法律で不可能になる。
だから、誰もが滅多に番になろうとしないのだ。
栄太は、どうするのだろう?
奏は――――心を決めようとしていたのだが……。
「……大丈夫かい? なんだか、とても顔色が悪いが……」
「え? 」
「ひどい顔色だ。急に真っ青になって――――何か、心当たりがあったのかい? 」
「え……あ、えぇ……」
奏は何とか言葉を返した。
(もしかしたら――――栄太さんの愛人が、僕に……? )
それなら、辻褄が合う。
馬淵栄太の心を捉えた奏へ、彼の愛人が憎悪を向けたのなら……充分説明がつく。
「っ! 」
「発情期の期間中は、どうしていた? 不要な外出などして、不特定多数の人間が行き交う街へ出たりはしなかったか? 」
「そんなっ」
「本人にその気がなくても――――また、普段は大して魅力的でなくても、発情期のオメガは、ベータやアルファにとってはとても扇情的で魅惑的な獲物に変わるんだよ」
九条の言い分にカッとして、奏は口を開いた。
「僕だって、それくらい知っています! だから、発情期が近付いてきたら外出は控えていたし、時期に入ったら栄太さんとホテルに……」
思わず口を滑らせてしまった。
ハッとして口を噤んだが、相手にはもう聞こえている。
「『栄太』? 」
「――――僕の…………ベータの婚約者です……」
これに、チラリと、九条は奏の首へ視線を向ける。
「しかし、まだ番の契約はしていない? 」
「……はい……」
「そういう曖昧なところが、付け込まれるのではないか? 『まだ自分にも可能性はある』と、勝手にどこかのベータにでも期待されて嫉妬されたとは考えないか? 」
「で、でも! 僕に誰かが片思いして、それで嫉妬したという発想の方が飛躍してませんか? だいたい、僕には全然心当たりはありませんよ」
そうだ。
普段の奏は、見た目も性格も地味な方だ。オメガの男体は美形が多いというのに、その中にあって、奏は非常に目立たない存在である。
唯一の個性は、首の酷い傷跡と優秀な頭脳くらいだ。
こんなものが、人を惹きつけるとは思えない。
だから奏はこれまで、告白も何も、された事な一度も無い。
馬淵栄太は、特殊な例だろう。
こんな地味な奏を、可愛いだの愛しているだのと言うなんて……本当に珍しい男だ。
子供も、どうでもいいとまで言ってくれるとは……。
そこで奏は思い至った。
かつて栄太にも言った事があるではないか!
どうしてそれを忘れていたのか。
(そうだ――――栄太さんは、僕の他にも何人かオメガを囲っていたんだ! )
『あなたは自分のDNAを持つ子供が欲しいだけ。なら当然、僕の他にも、複数の愛人がいる筈ですよね? 』
『――――それが、悪いか? 』
『いいえ、それで結構です。オメガの男体である僕一人を囲うなんて酔狂なマネ、あなたのような賢い人がする筈ありませんし』
五年前の会話を思い出し、一気に血の気が引いた。
(え、栄太さんは……その時の愛人を、今はどうしているんだろう? )
愛人との間に、子供はいるのか?
奏は、てっきり番になろうと……栄太から告白されるのだろうと思っていたが――――栄太は、奏と番になる気はあるのか?
番の契約を結んでしまったら、他に伴侶を持つことは法律で不可能になる。
だから、誰もが滅多に番になろうとしないのだ。
栄太は、どうするのだろう?
奏は――――心を決めようとしていたのだが……。
「……大丈夫かい? なんだか、とても顔色が悪いが……」
「え? 」
「ひどい顔色だ。急に真っ青になって――――何か、心当たりがあったのかい? 」
「え……あ、えぇ……」
奏は何とか言葉を返した。
(もしかしたら――――栄太さんの愛人が、僕に……? )
それなら、辻褄が合う。
馬淵栄太の心を捉えた奏へ、彼の愛人が憎悪を向けたのなら……充分説明がつく。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる