66 / 240
20
20-7
しおりを挟む
もともと5年前、それだけをセールスポイントにして、奏は正嘉ヘと再度アピールを試みようとしていた。
僕と番になってくれたのなら、優秀な子を必ず産みますからと――――発情期が訪れた事を期に、何とか両親に頼んで『青柳家と交渉してほしい』『渡りを取って欲しい』と、手紙に書いて懇願した。
青柳正嘉こそが、運命の番だと信じて。
もう、今となっては……何とも虚しい話だが。
「……また、ヤツの事を考えているのか? 」
栄太の言葉に、ハッと奏は顔を上げる。
「――あ……ご、ごめんなさい……」
目の前の人を無視して、違う男の事を考えていた。
その事に、何とはなしに罪悪感を覚え、奏はしゅんと肩を竦める。
すると、栄太の方もハッとして、一瞬でも険しい顔をした事を後悔した。
「すまない。こんなつもりじゃなかったんだが……どうにも、オレはアルファの連中が嫌いだから……恋人が少しでもヤツの事を考えていると思うと、つい……」
「い、いいえ! 今のは、僕が悪いんです。もう、正嘉さまの事は考えないようにしていたのに――」
でもやっぱり、今でもつい考えてしまう。
あの人は、今どうしているのだろうかとか。
少しは僕の事を、覚えていてくれているだろうか――とか。
そんなワケ、無いのに。
「……週末、また連絡ください。僕の頭の中を、あなたで一杯にしたいです」
そう意識せずに言った言葉は、思いの外、栄太の歓心を得たようだ。
栄太は目に見えて機嫌を直すと、ニコニコと笑って奏を手繰り寄せた。
「あ……」
チュッと、優しいキスを、奏の唇へ落とす。
「勿論、任せておけ! 週末と言わず、毎日電話をする。お前の頭の中をオレで一杯にして、あのアルファなんか二度と思い出せないようにしてやるからな」
「栄太さん――」
「そうだ、お前にプレゼントがあるんだ」
そう言うと、栄太はポケットから薄い紙袋を取り出した。
「それは……? 」
「午前中に寄ったショップでな」
どうやら、栄太は奏へと、何か密かに買い求めていたらしい。
奏は慌てて口を開く。
「そんなっ! 受け取れません! 」
今まで放っておいたプレゼントも、結局奏が受け取る事になってしまったのだ。
この上、更に贈り物など受け取れない。
すると、栄太は『分かっている、わかっている』というように頷いた。
「――――そう言うと思って、高価なものは買っていないから安心しろ」
栄太はそう告げると、これはただのスカーフだからと奏へ渡す。
「お前の、その首」
「っ!? 」
「酷い傷跡だ。でも、発情期でもない普段は、首輪なんかしたくないだろう? 」
「ええ……」
首輪をして歩くのは、発情期のオメガであると名乗りながら歩くようなものだ。
それは、首を噛まれて番いの契約を結ぶという、不測の事態を回避する為の処置である筈だが――――そうすると、興味本位で近寄ってきたり、引き摺ってどこかへ連れ込もうとするようなタチのよくない輩もやって来るのが問題であった。
何といっても、発情期のオメガは最高のダッチワイフとなってしまう。
だから、オメガは自分の正体を隠すために、発情期でもない普段の時期は、首には何も巻かないものだ。
――――だが、奏の首には酷い傷跡があったので、非常にそれは悪目立ちをしていた。
栄太なりに、それを気に掛けていたらしい。
「単色で、柔らかい色のスカーフを買ってみた。シルクだが、その位なら大した金額じゃない。……首輪だと目立つが、スカーフなら普段から使えるだろう? 受け取ってくれ」
「栄太さん……でも――」
「きっと、奏に似合う」
最後にもう一度キスをすると、栄太は車へ戻り、小さく手を挙げながら走り去って行った。
奏はそれを、頬を染めながら見送った。
(わざわざ、僕に……こんな物を買うなんて……)
ピリッと封を開いてみると、ライトグリーンが目に優しいスカーフが入っていた。
「栄太さん――」
どうしよう、嬉しい!
奏は頬を染めながら、そのスカーフに顔を埋めた。
自分の顔が、このまま幸せで溶けてしまうのではないかと思った。
だが、その様子を――――少し離れた建物の陰から、ジッと見つめている者が居たのであった。
僕と番になってくれたのなら、優秀な子を必ず産みますからと――――発情期が訪れた事を期に、何とか両親に頼んで『青柳家と交渉してほしい』『渡りを取って欲しい』と、手紙に書いて懇願した。
青柳正嘉こそが、運命の番だと信じて。
もう、今となっては……何とも虚しい話だが。
「……また、ヤツの事を考えているのか? 」
栄太の言葉に、ハッと奏は顔を上げる。
「――あ……ご、ごめんなさい……」
目の前の人を無視して、違う男の事を考えていた。
その事に、何とはなしに罪悪感を覚え、奏はしゅんと肩を竦める。
すると、栄太の方もハッとして、一瞬でも険しい顔をした事を後悔した。
「すまない。こんなつもりじゃなかったんだが……どうにも、オレはアルファの連中が嫌いだから……恋人が少しでもヤツの事を考えていると思うと、つい……」
「い、いいえ! 今のは、僕が悪いんです。もう、正嘉さまの事は考えないようにしていたのに――」
でもやっぱり、今でもつい考えてしまう。
あの人は、今どうしているのだろうかとか。
少しは僕の事を、覚えていてくれているだろうか――とか。
そんなワケ、無いのに。
「……週末、また連絡ください。僕の頭の中を、あなたで一杯にしたいです」
そう意識せずに言った言葉は、思いの外、栄太の歓心を得たようだ。
栄太は目に見えて機嫌を直すと、ニコニコと笑って奏を手繰り寄せた。
「あ……」
チュッと、優しいキスを、奏の唇へ落とす。
「勿論、任せておけ! 週末と言わず、毎日電話をする。お前の頭の中をオレで一杯にして、あのアルファなんか二度と思い出せないようにしてやるからな」
「栄太さん――」
「そうだ、お前にプレゼントがあるんだ」
そう言うと、栄太はポケットから薄い紙袋を取り出した。
「それは……? 」
「午前中に寄ったショップでな」
どうやら、栄太は奏へと、何か密かに買い求めていたらしい。
奏は慌てて口を開く。
「そんなっ! 受け取れません! 」
今まで放っておいたプレゼントも、結局奏が受け取る事になってしまったのだ。
この上、更に贈り物など受け取れない。
すると、栄太は『分かっている、わかっている』というように頷いた。
「――――そう言うと思って、高価なものは買っていないから安心しろ」
栄太はそう告げると、これはただのスカーフだからと奏へ渡す。
「お前の、その首」
「っ!? 」
「酷い傷跡だ。でも、発情期でもない普段は、首輪なんかしたくないだろう? 」
「ええ……」
首輪をして歩くのは、発情期のオメガであると名乗りながら歩くようなものだ。
それは、首を噛まれて番いの契約を結ぶという、不測の事態を回避する為の処置である筈だが――――そうすると、興味本位で近寄ってきたり、引き摺ってどこかへ連れ込もうとするようなタチのよくない輩もやって来るのが問題であった。
何といっても、発情期のオメガは最高のダッチワイフとなってしまう。
だから、オメガは自分の正体を隠すために、発情期でもない普段の時期は、首には何も巻かないものだ。
――――だが、奏の首には酷い傷跡があったので、非常にそれは悪目立ちをしていた。
栄太なりに、それを気に掛けていたらしい。
「単色で、柔らかい色のスカーフを買ってみた。シルクだが、その位なら大した金額じゃない。……首輪だと目立つが、スカーフなら普段から使えるだろう? 受け取ってくれ」
「栄太さん……でも――」
「きっと、奏に似合う」
最後にもう一度キスをすると、栄太は車へ戻り、小さく手を挙げながら走り去って行った。
奏はそれを、頬を染めながら見送った。
(わざわざ、僕に……こんな物を買うなんて……)
ピリッと封を開いてみると、ライトグリーンが目に優しいスカーフが入っていた。
「栄太さん――」
どうしよう、嬉しい!
奏は頬を染めながら、そのスカーフに顔を埋めた。
自分の顔が、このまま幸せで溶けてしまうのではないかと思った。
だが、その様子を――――少し離れた建物の陰から、ジッと見つめている者が居たのであった。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる