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 結局『スマタ』の意味は分からなかったが、絶対にいやらしい事だ!

 奏はそう思いながら、シャワーを浴びる。

 天窓から入る陽光の下、改めて自分の身体を見ると、あちこちに鬱血した跡が残っているのが分かった。

 さすがに、これが何なのかは、奏でも理解している。

(あ――こんな所にまで、キスマークが……)

 よくよく見ると、内股と脇腹に跡が集中している。

 そして、散々嬲られた乳首はぷっくりと膨れたままだ。

 止めてくれと懇願したのに、栄太はそこを、捏ねたり吸ったり甘噛みしたりして、意地悪をしてきたのだ。

(も、もう! いやらしい事ばっかりするんだから……)

 だがこれを、いつも発情期の度にしていたかと思うと――――正直、居たたまれない。

 しかもどうやら、奏の方から栄太の上に跨って腰を振り乱していたらしい。

 信じられない事だが、多分本当の事なんだろう。

 今回は、それを全部リセットして――――頭がクリアな状態でのセックスだった。

 さすがにそれでも、初めての発情期の時のセックスは覚えているが……。

 ああ、あれは本当に最悪だった。

 それを思い出して、奏の表情は曇った。

 完全に身体が慣れる前に、無理に雄芯を捻じ込まれ……【気絶ヤギファインディング・ゴート】の苦痛の上にそんな責め苦を負って、ひどい出血をして辛い目に遭ったのだ。

 奏は、それからずっと栄太を恨んで嫌っていたが、栄太の方もかなり苦しんでいたらしい。

――――今は、それが分かる。

(昨日は結局、僕のココに入れなかったんだよね? ……あんなに勃起してたのに、我慢してそれは止めてくれたんだ……)

 相当気を遣ってくれたのだろう。

 一番最初に奏を酷く傷つけた事を、ずっと後悔していたと言っていたし。

(僕の事を……愛しているって……)

 栄太が言った言葉は、本当の事だろう。

 今まで一度も、誰からも言われた事のないセリフだ。父も母も兄弟も、勿論正嘉も……。

(栄太さんだけが、何回も言ってくれた)

 だから奏は、今は、素直にその告白を嬉しいと感じている。

――――それ故、自分も……栄太を愛するように、これから努力しなければならないと思うのだ。

 昨日のような、顔も上げられない程恥ずかしい思いを味わうのは正直言って苦手だが……徐々に、慣れるように頑張らないと。

 発情期以外でも、愛の行為を交わせるように、もっともっと尽力しなければ。

(発情期、か……)

 子を生すには、発情期ヒートの期間での交接しか可能性はない。

 オメガの男体は、それ以外の期間は決して妊娠しないのだ。

 そしてこの5年、奏は栄太と交接を重ねたが、妊娠の兆候は無かった。

 どうしても相性というものはある。

 奏と栄太は、多分マッチングしないのだろう。

 故に、奏は無用の長物として、ベータの栄太から捨てられても文句は言えない立場になる。しかし栄太は、奏を愛しているし子供もどうでもいいとまで言ってくれた。

 なんと寛大な人なのだろうと、オメガである奏は――――栄太のその言葉に、本来喜ばなければならない所だろう。

 そうでなければ、道理がオカシイ。

 オメガの男体など、元々二束三文で売買されるような底辺の人種なのだから。

(うん……きっと大丈夫。僕は、これから栄太さんを愛してみよう)

――――愛していると言ってくれる人を、自分も愛さなければ。

 まずは、このシャワーの後は…………用意してくれた朝食を食べて、軽くお礼のキスをするのが正解かな?

 奏はそう考えると、ちょっとだけフフっと笑った。

   ◇

「今日は、ありがとうございました」

 朝食の後、軽くドライブをしながら、大型ショッピングモールを見て回った。

 そこで装飾品を買おうとする栄太へ丁重に断りを入れ、美味しそうな焼き菓子を買った。

 そして、湖畔を眺めながら食事を楽しめるレストランに寄り、地産地消に拘っているというシェフの美味しいランチを御馳走になった。

 奏も最初は緊張していたが、意外と話し上手な栄太のペースに乗せられ、いつの間にか自然な笑顔を零しながら、ラクレットチーズもここで作っているのかとか、少し研究室にお土産に買って行こうか等と楽しく会話をしていた。

 楽しい時間は、あっという間に過ぎる。

 今夜も泊ればいいのにという栄太の誘いを丁寧に辞退して、アパートからちょっと離れた場所で降ろしてもらい、奏はペコリと頭を下げた。

「昨日、今日と――――とても楽しかったです。美味しいご飯もご馳走させてもらって、ありがとうございました」

「オレも、楽しかった。また週末にデートしような」

「え? 」

「まさか、まだ発情期を待てなんて言うなよ? 」

「そ、それは……」

 週末にまた、昨夜の続きをしようというのか?

 己の晒してであろう痴態をまた思い出して、真っ赤になる奏を、栄太は愛しげに見遣る。

「発情期のオメガも、そりゃあ魅惑的でいいが――こうして、きちんと意思を保っている状態での付き合いこそを、大切にするべきなんだと――――オレはつくづく思ったよ」

「栄太さん……」

「こっちの奏の方が、素顔だろう? 発情期の時の奏は、淫婦のように最高にセクシーだったが……発情期間が終わると、氷の人形に戻ってしまっていた。その度にオレは、とても悲しかったよ」

――――どんなに熱い夜を過ごしても、そこには心が一切通っていない事実を突きつけられて。

 そう言うと、栄太は切なそうに笑った。

「……だから、今みたいに恥ずかしそうに顔を真っ赤にする奏を見ていると、ここには本当に心があるんだと思えて、オレは凄く嬉しいんだ」

「そ、そんなに――僕は、いいオメガじゃないですよ。あなたは可愛いと言ってくれるけど、実際は容姿も飛び抜けているわけじゃないし……平凡で普通です。少しだけ……頭脳はいいかもしれないけれど」

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