65 / 240
20
20-6
しおりを挟む
結局『スマタ』の意味は分からなかったが、絶対にいやらしい事だ!
奏はそう思いながら、シャワーを浴びる。
天窓から入る陽光の下、改めて自分の身体を見ると、あちこちに鬱血した跡が残っているのが分かった。
さすがに、これが何なのかは、奏でも理解している。
(あ――こんな所にまで、キスマークが……)
よくよく見ると、内股と脇腹に跡が集中している。
そして、散々嬲られた乳首はぷっくりと膨れたままだ。
止めてくれと懇願したのに、栄太はそこを、捏ねたり吸ったり甘噛みしたりして、意地悪をしてきたのだ。
(も、もう! いやらしい事ばっかりするんだから……)
だがこれを、いつも発情期の度にしていたかと思うと――――正直、居たたまれない。
しかもどうやら、奏の方から栄太の上に跨って腰を振り乱していたらしい。
信じられない事だが、多分本当の事なんだろう。
今回は、それを全部リセットして――――頭がクリアな状態でのセックスだった。
さすがにそれでも、初めての発情期の時のセックスは覚えているが……。
ああ、あれは本当に最悪だった。
それを思い出して、奏の表情は曇った。
完全に身体が慣れる前に、無理に雄芯を捻じ込まれ……【気絶ヤギ】の苦痛の上にそんな責め苦を負って、ひどい出血をして辛い目に遭ったのだ。
奏は、それからずっと栄太を恨んで嫌っていたが、栄太の方もかなり苦しんでいたらしい。
――――今は、それが分かる。
(昨日は結局、僕のココに入れなかったんだよね? ……あんなに勃起してたのに、我慢してそれは止めてくれたんだ……)
相当気を遣ってくれたのだろう。
一番最初に奏を酷く傷つけた事を、ずっと後悔していたと言っていたし。
(僕の事を……愛しているって……)
栄太が言った言葉は、本当の事だろう。
今まで一度も、誰からも言われた事のないセリフだ。父も母も兄弟も、勿論正嘉も……。
(栄太さんだけが、何回も言ってくれた)
だから奏は、今は、素直にその告白を嬉しいと感じている。
――――それ故、自分も……栄太を愛するように、これから努力しなければならないと思うのだ。
昨日のような、顔も上げられない程恥ずかしい思いを味わうのは正直言って苦手だが……徐々に、慣れるように頑張らないと。
発情期以外でも、愛の行為を交わせるように、もっともっと尽力しなければ。
(発情期、か……)
子を生すには、発情期の期間での交接しか可能性はない。
オメガの男体は、それ以外の期間は決して妊娠しないのだ。
そしてこの5年、奏は栄太と交接を重ねたが、妊娠の兆候は無かった。
どうしても相性というものはある。
奏と栄太は、多分マッチングしないのだろう。
故に、奏は無用の長物として、ベータの栄太から捨てられても文句は言えない立場になる。しかし栄太は、奏を愛しているし子供もどうでもいいとまで言ってくれた。
なんと寛大な人なのだろうと、オメガである奏は――――栄太のその言葉に、本来喜ばなければならない所だろう。
そうでなければ、道理がオカシイ。
オメガの男体など、元々二束三文で売買されるような底辺の人種なのだから。
(うん……きっと大丈夫。僕は、これから栄太さんを愛してみよう)
――――愛していると言ってくれる人を、自分も愛さなければ。
まずは、このシャワーの後は…………用意してくれた朝食を食べて、軽くお礼のキスをするのが正解かな?
奏はそう考えると、ちょっとだけフフっと笑った。
◇
「今日は、ありがとうございました」
朝食の後、軽くドライブをしながら、大型ショッピングモールを見て回った。
そこで装飾品を買おうとする栄太へ丁重に断りを入れ、美味しそうな焼き菓子を買った。
そして、湖畔を眺めながら食事を楽しめるレストランに寄り、地産地消に拘っているというシェフの美味しいランチを御馳走になった。
奏も最初は緊張していたが、意外と話し上手な栄太のペースに乗せられ、いつの間にか自然な笑顔を零しながら、ラクレットチーズもここで作っているのかとか、少し研究室にお土産に買って行こうか等と楽しく会話をしていた。
楽しい時間は、あっという間に過ぎる。
今夜も泊ればいいのにという栄太の誘いを丁寧に辞退して、アパートからちょっと離れた場所で降ろしてもらい、奏はペコリと頭を下げた。
「昨日、今日と――――とても楽しかったです。美味しいご飯もご馳走させてもらって、ありがとうございました」
「オレも、楽しかった。また週末にデートしような」
「え? 」
「まさか、まだ発情期を待てなんて言うなよ? 」
「そ、それは……」
週末にまた、昨夜の続きをしようというのか?
己の晒してであろう痴態をまた思い出して、真っ赤になる奏を、栄太は愛しげに見遣る。
「発情期のオメガも、そりゃあ魅惑的でいいが――こうして、きちんと意思を保っている状態での付き合いこそを、大切にするべきなんだと――――オレはつくづく思ったよ」
「栄太さん……」
「こっちの奏の方が、素顔だろう? 発情期の時の奏は、淫婦のように最高にセクシーだったが……発情期間が終わると、氷の人形に戻ってしまっていた。その度にオレは、とても悲しかったよ」
――――どんなに熱い夜を過ごしても、そこには心が一切通っていない事実を突きつけられて。
そう言うと、栄太は切なそうに笑った。
「……だから、今みたいに恥ずかしそうに顔を真っ赤にする奏を見ていると、ここには本当に心があるんだと思えて、オレは凄く嬉しいんだ」
「そ、そんなに――僕は、いいオメガじゃないですよ。あなたは可愛いと言ってくれるけど、実際は容姿も飛び抜けているわけじゃないし……平凡で普通です。少しだけ……頭脳はいいかもしれないけれど」
奏はそう思いながら、シャワーを浴びる。
天窓から入る陽光の下、改めて自分の身体を見ると、あちこちに鬱血した跡が残っているのが分かった。
さすがに、これが何なのかは、奏でも理解している。
(あ――こんな所にまで、キスマークが……)
よくよく見ると、内股と脇腹に跡が集中している。
そして、散々嬲られた乳首はぷっくりと膨れたままだ。
止めてくれと懇願したのに、栄太はそこを、捏ねたり吸ったり甘噛みしたりして、意地悪をしてきたのだ。
(も、もう! いやらしい事ばっかりするんだから……)
だがこれを、いつも発情期の度にしていたかと思うと――――正直、居たたまれない。
しかもどうやら、奏の方から栄太の上に跨って腰を振り乱していたらしい。
信じられない事だが、多分本当の事なんだろう。
今回は、それを全部リセットして――――頭がクリアな状態でのセックスだった。
さすがにそれでも、初めての発情期の時のセックスは覚えているが……。
ああ、あれは本当に最悪だった。
それを思い出して、奏の表情は曇った。
完全に身体が慣れる前に、無理に雄芯を捻じ込まれ……【気絶ヤギ】の苦痛の上にそんな責め苦を負って、ひどい出血をして辛い目に遭ったのだ。
奏は、それからずっと栄太を恨んで嫌っていたが、栄太の方もかなり苦しんでいたらしい。
――――今は、それが分かる。
(昨日は結局、僕のココに入れなかったんだよね? ……あんなに勃起してたのに、我慢してそれは止めてくれたんだ……)
相当気を遣ってくれたのだろう。
一番最初に奏を酷く傷つけた事を、ずっと後悔していたと言っていたし。
(僕の事を……愛しているって……)
栄太が言った言葉は、本当の事だろう。
今まで一度も、誰からも言われた事のないセリフだ。父も母も兄弟も、勿論正嘉も……。
(栄太さんだけが、何回も言ってくれた)
だから奏は、今は、素直にその告白を嬉しいと感じている。
――――それ故、自分も……栄太を愛するように、これから努力しなければならないと思うのだ。
昨日のような、顔も上げられない程恥ずかしい思いを味わうのは正直言って苦手だが……徐々に、慣れるように頑張らないと。
発情期以外でも、愛の行為を交わせるように、もっともっと尽力しなければ。
(発情期、か……)
子を生すには、発情期の期間での交接しか可能性はない。
オメガの男体は、それ以外の期間は決して妊娠しないのだ。
そしてこの5年、奏は栄太と交接を重ねたが、妊娠の兆候は無かった。
どうしても相性というものはある。
奏と栄太は、多分マッチングしないのだろう。
故に、奏は無用の長物として、ベータの栄太から捨てられても文句は言えない立場になる。しかし栄太は、奏を愛しているし子供もどうでもいいとまで言ってくれた。
なんと寛大な人なのだろうと、オメガである奏は――――栄太のその言葉に、本来喜ばなければならない所だろう。
そうでなければ、道理がオカシイ。
オメガの男体など、元々二束三文で売買されるような底辺の人種なのだから。
(うん……きっと大丈夫。僕は、これから栄太さんを愛してみよう)
――――愛していると言ってくれる人を、自分も愛さなければ。
まずは、このシャワーの後は…………用意してくれた朝食を食べて、軽くお礼のキスをするのが正解かな?
奏はそう考えると、ちょっとだけフフっと笑った。
◇
「今日は、ありがとうございました」
朝食の後、軽くドライブをしながら、大型ショッピングモールを見て回った。
そこで装飾品を買おうとする栄太へ丁重に断りを入れ、美味しそうな焼き菓子を買った。
そして、湖畔を眺めながら食事を楽しめるレストランに寄り、地産地消に拘っているというシェフの美味しいランチを御馳走になった。
奏も最初は緊張していたが、意外と話し上手な栄太のペースに乗せられ、いつの間にか自然な笑顔を零しながら、ラクレットチーズもここで作っているのかとか、少し研究室にお土産に買って行こうか等と楽しく会話をしていた。
楽しい時間は、あっという間に過ぎる。
今夜も泊ればいいのにという栄太の誘いを丁寧に辞退して、アパートからちょっと離れた場所で降ろしてもらい、奏はペコリと頭を下げた。
「昨日、今日と――――とても楽しかったです。美味しいご飯もご馳走させてもらって、ありがとうございました」
「オレも、楽しかった。また週末にデートしような」
「え? 」
「まさか、まだ発情期を待てなんて言うなよ? 」
「そ、それは……」
週末にまた、昨夜の続きをしようというのか?
己の晒してであろう痴態をまた思い出して、真っ赤になる奏を、栄太は愛しげに見遣る。
「発情期のオメガも、そりゃあ魅惑的でいいが――こうして、きちんと意思を保っている状態での付き合いこそを、大切にするべきなんだと――――オレはつくづく思ったよ」
「栄太さん……」
「こっちの奏の方が、素顔だろう? 発情期の時の奏は、淫婦のように最高にセクシーだったが……発情期間が終わると、氷の人形に戻ってしまっていた。その度にオレは、とても悲しかったよ」
――――どんなに熱い夜を過ごしても、そこには心が一切通っていない事実を突きつけられて。
そう言うと、栄太は切なそうに笑った。
「……だから、今みたいに恥ずかしそうに顔を真っ赤にする奏を見ていると、ここには本当に心があるんだと思えて、オレは凄く嬉しいんだ」
「そ、そんなに――僕は、いいオメガじゃないですよ。あなたは可愛いと言ってくれるけど、実際は容姿も飛び抜けているわけじゃないし……平凡で普通です。少しだけ……頭脳はいいかもしれないけれど」
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
好きな子が毎日下着の状態を報告してくるのですが正直脈ありでしょうか?〜はいてないとは言われると思いませんでした〜
ざんまい
恋愛
今日の彼女の下着は、ピンク色でした。
ちょっぴり変態で素直になれない卯月蓮華と、
活発で前向き過ぎる水無月紫陽花の鈍感な二人が織りなす全力空回りラブコメディ。
「小説家になろう」にて先行投稿しております。
続きがきになる方は、是非見にきてくれるとありがたいです!
下にURLもありますのでよろしくお願いします!
https://ncode.syosetu.com/n8452gp/
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる