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「ん? 」

「わ、わざと……? それ、止め……は、恥ずかしいから……」

 そう言ったところ、栄太は聴こえない振りをして更に指を増やした。

「いや、や、だ……」

「痛くないだろう? 」

 確かに、痛みはない。

 長く時間を掛けて、解されたのだから。

 だが、もう奏は何をしたらいいのか――どうすればいいのか分からなくて、どうにか逃げようと腰を動かす。

 しかしその動きは、ますます栄太の指を感じ取ってしまって……。

「うっ! 」

 ヒクリと奏の身体が痙攣し、薄い液が、小ぶりなその雄芯から滴る。

 一瞬、意識が飛ぶ。

「あ、あ――あぁ……」

「――――お前は本当に、可愛いな」

 栄太はそう言うと、奏の唇を奪う。

(――――本当に可愛い。発情期じゃないのに、アナルを指で弄られただけで中イキして、潮を噴いてくれるとは)

 だが、これはまだ奏には言わない方がいいか。

 栄太はそう思い、苦笑する。

 中イキだの、潮噴きだの。

 今の奏には、刺激が強すぎる文言だ。

 徐々に、ゆっくりと――――教えてやろう。

 栄太はそう思うと、腕の中で喘ぎ続ける奏の顔中にキスの雨を降らせる。

 しかし奏の方は、もう神経が焼き切れた気分だった。

 事実、ここから先の記憶は……霞の向こうに消えた。

   ◇

「――奏? 」

 程なくして戻って来た栄太に声を掛けられたが、奏は相変わらずミノムシ状態でベッドの上に丸まっていた。

 すると、栄太がまた声をかけて来た。

「まだ――寝ているか? 」

「……」

「じゃあ、このまま風呂場に連れ込んで……眠っている奏の身体にいやらしい事をしながら、シャワーでも……」

「お、起きてますから、そういうのはもうダメです! 自分で洗います! 」

 咄嗟にそう返し、奏はシーツから顔を出した。

 そうしたら、朝食を乗せたプレートを両手に、ニヤニヤと寝室を覗いて笑っている栄太と目が合った。

 ハッとして、奏はむぅっと膨れる。

「わ、わざと言いましたね! 」

「ハハハ、いや――つい」

「意地悪するの、止めてくださいっ」

「ああ、悪い悪い」

 そう言いながら、栄太はプレートを手にリビング中央へ足を運び、それをローテーブルへ置いた。

 そのまま背中越しに、寝室の奏へと声を投げ掛ける。

「さ、シャワーを浴びて顔を洗って来いよ。ミルクとサラダとフルーツと、卵サンドだけでいいかな……? とりあえず、軽いものだけを頼んだ。この後のランチでは、しっかりしたヤツを食べようと思ってる。それと、ディナーも」

「え……? 」

「どうした? 」

「よ、夜は――僕は研究のチェックもあるし、アパートの仲間には二泊するとは言ってなかったし……」

 おずおずと言い繕いながら、奏はベッドサイドに置いてあったガウンを素早く纏い、シャワーを浴びに寝室を出ようとした。

――――だが、

「おっと! 」

 寝室を二歩三歩、そしてリビングを横切ろうとしたところで、腰から力が抜けてガクリと膝が落ちる。

 それを、栄太がガシッと受け止めた。

「大丈夫か? 」

「ご、ごめんなさい……急に力が抜けちゃって……」

「昨夜は本番はしてないんだが……それでも腰に来たのか? 発情期の時とは、本当に全然違うんだな」

 栄太のセリフに、奏の顔はポッと赤くなった。

――――そうなのだ。

 あれだけ長い時間を掛けて後孔を解したというのに、そこは栄太の雄芯を迎え入れるに至らず、その前に奏の方がギブアップしてしまったのだ。

 何だかもう……頭が沸騰しそうな羞恥と、経験した事のない快感にすっかり意識を飛ばし、ぐんにゃりとベッドに沈没してしまった奏だ。

 栄太としては、こんな状態の奏に、己を突き入れるのはさすがに気が咎める。

 仕方なしに、栄太は奏の両ひざをピッタリと閉じさせ、そこに己の雄芯を挟み込んだ。

 そのまま前後に擦り合わせ、そこに欲望を噴き出したわけである。

 だから奏の後孔は、いまだ未通だった…………発情期時以外では、だが。

「ですから――次の発情期を待とうって言ったんじゃないですか。僕は、もう――恥ずかしくって」

「ん~……だが、処女を開発する気分を味わえて、オレはそれなりに楽しかったが」

「もうっ! 」

「ハハハ、まさかこっちも、素股でイク事になるとは思わなかったけどな」

「? なんです、そのスマタって? 」

 奏がそう訊き返すと、栄太がまたしてもニヤリと笑った。

 ここ数日で分かった事がある。

 馬淵栄太がそうやって笑う時は、何かいやらしい事を考えている時だと。

「しゃ、シャワーを浴びてきます! 」

 奏は慌ててそう言うと、壁に手をつきながら、こけつまろびつそこから逃亡した。

 それを栄太は、愉快そうに笑いながら見送った。

(もう! 栄太さんってば――Hな事ばっかり! )

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