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しおりを挟む抱えられ、シャワーブースに着いた途端に、奏はバスタブに腰かけるよう促された。
戸惑いながらそれに従うと、栄太は恭しく膝を着いて、奏の着ていた洋服を丁寧に脱がしていく。
「え、栄太さん――」
その手を止めようとしたところ、優しく――だが、強い意志を込めて、栄太は奏の服を取り去っていく。
下着一枚になった所で、素肌に触れる空気が冷たくて、ちょっと身を竦めたが――それに気付いた栄太が、シャワーのコックを捻った。
すると、お湯が勢いよく流れ出て、蒸気で室内がたちまち暖かくなる。
「寒くないか? 」
「は、はい……あの――」
さて、これからどうすればいいのか?
幾度も栄太と逢瀬を重ねたが、今の奏は全くのピュアだ。
いったい、発情期の時に自分がどうしていたのかも、あまり覚えていない。
霞の向こうの景色を思い出そうと、必死になって記憶を探っているような感覚だ。
どうすればいいのか、どんな顔をすればいいのかも全然分からない。
(こんな――こんな時は、僕は何をするのが正解なんだ!? )
本当に、まったく分からない。
ただただ――――恥ずかしくて、奏は身体を固くするばかりだ。
鏡に映る、貧相な自分の身体が厭わしい。
対して、栄太の方は、男として立派な体躯をしているというのに。
(僕は、まるっきり子供みたいじゃないか――手足も細くて胸板も薄くて――――ああ、最悪だ…………)
この身体のどこが、魅力的だというのか?
「あ、あの……無理は、しなくていいんですよ? 今の僕は、そこら辺に居るただのオメガと変わらない筈ですし――――セセセ、セックスなんて――」
とんでもない手間暇を掛けなければ、快楽を得るなんて無理な状態の筈である。
仲間から聞いた事がある。
発情期ではない、ただのオメガの男性体では、あそこは固くてきつくてとても使い物にならないと。
「は、発情期に入れば、いつものように身体が柔らかくなって――――難なくあなたの……ペ、ペニスを……挿入可能になるのだし…………む、む、無理に今しなくても――」
しどろもどろになりながら、奏は顔を真っ赤にしてそう言い募った。
栄太はその様子に微笑みながら、自分も服を脱いでいく。
「――――そうだな。発情期に入った時のお前は、とてもセクシーだ」
「だ、だ、だ、だったら――――」
とうとう両手で顔を覆ってしまった奏に、栄太はゆっくりと声を掛けた。
「――――でも、こうしてちゃんとオレとの行為を、思い出として記憶に刻んでいこうとするなら――発情期以外での、この愛し合う時間が必要なわけだろう? 」
「栄太さん――? 」
「発情期のお前は本当に最高だ。どこもかしこも甘い匂いがして、その芳しいオメガフェロモンに、こっちの頭も飛ぶからな。でも、心から愛し合う為には――――今の状態がベストだろう? 」
栄太はそう言うと、両手で顔を覆う奏の肩へと、そっと口づけを落とした。
――――肩から、ゾクゾクとした感覚が全身に走る。
でもそれは、決して不快ではない。
「あ……」
どこか甘さを含んだ声が、奏の口からもれる。
奏は、その自分声に驚き、パッと両手で口を覆った。
(なんて声を出してるんだ、僕は! は、はしたない……)
何だかんだ言って、奏はこれまで結城家で箱入りで育てられた。
『――――お前はオメガだが、いつか発情期を迎えても、むやみやたらに発情した犬のように尻尾を振ってはいけないぞ』
『友人など、あなたには必要ありません。余計な知識など吹き込まれては困りますから』
『お前には、青柳正嘉という立派な婚約者がいるのだからな。間違っても他の者に関心を向けるなよ』
そう、両親やメイド長に教え込まれて、純潔を守るよう禁欲を旨をするように命令された。
だから奏は、栄太に会うまでは、自慰さえした事が無かった。
全部全部、栄太が初めてだった――――。
「ん…………うん……あ――」
でも、口づけが、こんなに呆然とするほど気持ちがいいなんて、奏は今の今まで知らなかった。
幾度も栄太と交わした筈だが、それは全部発情期の時だったから――本当に全然覚えていない。
肩に落ちるキスが気持ちいい、耳を甘噛みされるのが気持ちいい。
首筋を舐められるのがくすぐったい。
「あぁん……」
また、甘い声が奏の口からもれた。
くすくす笑いながら、栄太は奏の両手にそっと手を添える。
「――――まだ、恥ずかしいか? 」
「だ、だって……」
「そろそろ、可愛いお前の顔を見せてくれ」
「――」
奏は顔を真っ赤にしながら、覆っていた手をどけた。
すると、男らしく精悍な顔をした、栄太の顔が真正面にあった。
「あ――」
バスタブに座っていた奏の顔に、今度は余すことなく栄太のキスの雨が降る。
もう、恥ずかしいどころではない。
奏は窒息しそうな気分になり、身体を移動させようとした。
すると、栄太はまた奏を抱え上げる。
「? 」
「一応バスタブはあるが、やっぱりシャワーブースじゃあ少し狭いからな。向こうの、広いバスルームに移動しよう」
「…………はい」
奏はそう言うと、おずおずと手を伸ばして、栄太の肩へと腕を回したのであった。
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