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そんな奏に、栄太は情熱的に囁いた。
「さっきも言っただろう? オメガとかベータとか、そんなのは一切関係ない。オレはお前が好きなんだ」
「栄太さん――で、でも……」
言葉は、深いキスで塞がれた。
奏の手からシャンパングラスが零れ落ち、それは毛足の長い絨毯の上に音もなく転がる。
「ぅんっ!? 」
栄太の厚い舌が、奏の舌を絡め取る。
(え――!? うそっ!? )
奏は驚いて、ジタバタと身悶えた。
そして唇が離れた瞬間に、両手で自分の口を押える。
思わずそんなガードをした状態で、奏は声を上げた。
「あの、分かってます? 僕は今は普通の男ですよ!? セ、セセセ……セックスにつかう後孔も全然柔らかくないし潤滑の為の体液も全然――つ、つまり、今は普通の排泄器官の役割しか果たしていないんですよ!? 妊娠だってしない! この通常状態の僕と性交を考えているなら、絶対に止めるべきです! 」
すると、栄太はクスっと笑った。
「まさか――――キスだけで、セックスの心配までされるとは思わなかった」
「あ……」
その指摘に、奏の顔は今度こそ真っ赤になる。
今まで栄太と会う時は、いつも性交時だけだった。
だから、つい――――その考えが、頭をよぎってしまった。
(何を考えているんだ、僕は! )
奏は居たたまれなくなり、パッと立ち上がった。
「僕、もう帰ります! 」
「? 」
「一人で勝手に変な想像して――すみませんでした。栄太さんはキスをしただけなのに。僕は自分が恥ずかしいです……今日はもうアパートに帰って、頭を冷やします」
そう呟き、奏は深く頭を下げた。
すると、栄太はまたクスクスと笑いながら静かに立ち上がり、頭を下げていた奏の両肩へ手を置く。
「……あのな。お前のその心配は、間違ってはいないぞ」
「え? 」
「オレは、今日はお前を抱こうと思っていたから、お前の想像はドンピシャリだ」
「っ!? 」
栄太のセリフに、奏は呆気にとられた。
何という事だ!
まさか、この、美しくもないしフェロモンも出していない状態の奏に、そんな事を言うベータがいるとは!
奏は、栄太がいったい何を考えているのか混乱し、頭を抱えてしゃがみ込む。
そうして、まるで苦しいのを我慢しているような、擦れた声をもらした。
「――――からかうのは、いい加減にしてください! 」
「からかう? 」
「だって、そうでしょう? そうやって、僕が舞い上がって動揺する様を見てバカにしようとしているんですか!? あなたは、やっぱり悪趣味だ……僕はもう帰りたい――」
今まで、本気で誰かに求められたことなど無い。
せいぜい、奏のオメガフェロモンに中てられた行きずりのベータやアルファに、襲われそうになったのが何度かあるくらいだ。
栄太だって――――奏の事を好ましく思っていたなんて言い出したのは、つい最近だ。
彼を信じるには、時期尚早もいいところだ。
信用するには、まだ時間が足りない。
「もう、そんな事を言うのは止めてください…………! 」
「――奏……」
すると、栄太は嘆息しながら、しゃがみ込んでしまった奏の頭へ手を置く。
「お前がそんな風に、猜疑心に憑りつかれてしまった原因の一端は、オレにもあるんだな…………」
「――」
「すまなかった。オレが勇気を出して、もっと早く言葉にしていれば――」
そこで言葉を区切ると、栄太は両腕を伸ばして、覆いかぶさるように奏をギュッと抱き締めた。
「さっきも言っただろう? オメガとかベータとか、そんなのは一切関係ない。オレはお前が好きなんだ」
「栄太さん――で、でも……」
言葉は、深いキスで塞がれた。
奏の手からシャンパングラスが零れ落ち、それは毛足の長い絨毯の上に音もなく転がる。
「ぅんっ!? 」
栄太の厚い舌が、奏の舌を絡め取る。
(え――!? うそっ!? )
奏は驚いて、ジタバタと身悶えた。
そして唇が離れた瞬間に、両手で自分の口を押える。
思わずそんなガードをした状態で、奏は声を上げた。
「あの、分かってます? 僕は今は普通の男ですよ!? セ、セセセ……セックスにつかう後孔も全然柔らかくないし潤滑の為の体液も全然――つ、つまり、今は普通の排泄器官の役割しか果たしていないんですよ!? 妊娠だってしない! この通常状態の僕と性交を考えているなら、絶対に止めるべきです! 」
すると、栄太はクスっと笑った。
「まさか――――キスだけで、セックスの心配までされるとは思わなかった」
「あ……」
その指摘に、奏の顔は今度こそ真っ赤になる。
今まで栄太と会う時は、いつも性交時だけだった。
だから、つい――――その考えが、頭をよぎってしまった。
(何を考えているんだ、僕は! )
奏は居たたまれなくなり、パッと立ち上がった。
「僕、もう帰ります! 」
「? 」
「一人で勝手に変な想像して――すみませんでした。栄太さんはキスをしただけなのに。僕は自分が恥ずかしいです……今日はもうアパートに帰って、頭を冷やします」
そう呟き、奏は深く頭を下げた。
すると、栄太はまたクスクスと笑いながら静かに立ち上がり、頭を下げていた奏の両肩へ手を置く。
「……あのな。お前のその心配は、間違ってはいないぞ」
「え? 」
「オレは、今日はお前を抱こうと思っていたから、お前の想像はドンピシャリだ」
「っ!? 」
栄太のセリフに、奏は呆気にとられた。
何という事だ!
まさか、この、美しくもないしフェロモンも出していない状態の奏に、そんな事を言うベータがいるとは!
奏は、栄太がいったい何を考えているのか混乱し、頭を抱えてしゃがみ込む。
そうして、まるで苦しいのを我慢しているような、擦れた声をもらした。
「――――からかうのは、いい加減にしてください! 」
「からかう? 」
「だって、そうでしょう? そうやって、僕が舞い上がって動揺する様を見てバカにしようとしているんですか!? あなたは、やっぱり悪趣味だ……僕はもう帰りたい――」
今まで、本気で誰かに求められたことなど無い。
せいぜい、奏のオメガフェロモンに中てられた行きずりのベータやアルファに、襲われそうになったのが何度かあるくらいだ。
栄太だって――――奏の事を好ましく思っていたなんて言い出したのは、つい最近だ。
彼を信じるには、時期尚早もいいところだ。
信用するには、まだ時間が足りない。
「もう、そんな事を言うのは止めてください…………! 」
「――奏……」
すると、栄太は嘆息しながら、しゃがみ込んでしまった奏の頭へ手を置く。
「お前がそんな風に、猜疑心に憑りつかれてしまった原因の一端は、オレにもあるんだな…………」
「――」
「すまなかった。オレが勇気を出して、もっと早く言葉にしていれば――」
そこで言葉を区切ると、栄太は両腕を伸ばして、覆いかぶさるように奏をギュッと抱き締めた。
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