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しおりを挟む5年前。
義理の兄には、顔も頭の出来も今一つだが、馬淵の血を受け継ぐ子供が3人もいた。
対して、25になる栄太にはまだ伴侶もいなかったし、当然子供などいない。
有名大学を出て父の会社へ潜り込み、強引な手法で下降気味だった業績を見事右肩上がりに押し上げた事で、栄太は馬淵家の時期後継者の地位に指名された。
これで、今まで散々栄太を馬鹿にしてきた、意地の悪いアルファの義理の兄弟を負かしたと、胸のすく気分でいられたのも束の間。
次に父親から言い渡されたのは、栄太のバトンを受け取る、次代の後継者を産出し育てる事だった。
そんな、無茶苦茶な――――と思ったが、逆らうことはできない。
それは即ち、馬淵家からの完全追放に繋がるからだ。
(しかし……会社を立て直したと思ったら、今度は、子供を作れと!? )
立て続けに科せられた課題に、さすがの栄太も疲労困憊していた。
今までは、アルファに負けてなるものかという一念だけで、学業と仕事に奮闘してきた。
それに手一杯で、恋愛など二の次だった。
時々、ストレス発散にオメガの商売女を買うくらいで、相手が優秀かどうかなんて考えた事もない。
今後は、それを詳細に調べてからセックスしなければならぬとは。
(オレは、ただの種牛じゃないか! )
そう思うと、心底、げんなりする。
しかし、こんな弱ったところなど他の者には見せられない。
――――知られてはいけない。
そうなったら、あっけなく馬淵家の不適合者の烙印を押されて、丁稚に格下げされてしまう。ただでさえ、栄太はベータなのだから。
酷薄なアルファの義父の、いつ離れるか分からない信頼と愛情。
そんなヤツに縋らなければ生きていけない、平凡なオメガの母親。
栄太は死に物狂いで努力し、アルファ達を押し退けてここまで登って来たのだ。
今更、負け犬になるワケにはいかない。
――――必ず、優秀な子供を作らなければ。
そう思った栄太は、自分の権力と資金力にモノを言わせて、数名の母体候補を見つけ出した。
オメガの女が二人。
そして――――オメガの男が、一人。
(オメガの男だって!? そんなの、女に比べたら出生率も低いし――――第一、突っ込むのがアナルなんて冗談じゃないぞ! )
栄太は、当初そう憤慨した。
所謂、アルファやベータの感覚で言うゲイとは違うのだろうが、やはりどうしてもこっちは抵抗がある。
男のクセに、発情してアナルをヌルヌルにして股を開くなんて、どう考えても気味が悪いとしか言いようがない。
――――そう、思っていた。
だが、そのオメガは、栄太が思っていたオメガとは違っていた。
名前は、結城奏。
頭脳明晰で、実際ずば抜けて成績優秀で、A大学を飛び級して院に進み、博士号も間近とか。
それならば、高確率で優秀な子を宿すだろうが――これで女であれば好かったのだが。
しかし、如何せん背に腹は代えられぬ。
それに、そんなに優秀なオメガが、もしも女であったなら、富裕層のアルファが囲い込んで、決して栄太にはチャンスが転がって来なかったに違いない。
ベータの自分では、これが限界か。
もう仕方がないかと、気が進まない中、仕方なしに貰い受ける事にした婚約者。
それが、奏だった。
――――しかし……。
素朴だが、清楚で優しく整った顔。
二重で丸縁の瞳はウサギのように可愛らしく、桜色の唇もぽってりしていて愛らしい。聡明で、性格も素直で、とても純真で魅力的な青年だった。
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