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最終章
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何とか、その一撃でコンクリートの上に膝を着くのを耐えて、史郎は呻き声をあげる。
だが、聖は攻撃の手を緩めない。
立て続けに肘打ちを叩き込み、スナップを効かせた踵落としを、その頑強な体へめり込ませる。筋肉の上から無駄に拳を叩き付けるような、そんな素人の攻撃はしない。
拳法で習った、関節、骨、健と、人体の弱点を確実に突いての玄人同然の攻撃だ。
さすがに堪らず、史郎は膝を着いた。
「っ――」
「さぁどうした!? やり返さないのか! 」
構えたまま挑発すると、史郎はゆらりと立ち上がった。
来るかと思い、身構えるが――――。
「……気は済んだか? 」
なんと、史郎は反撃もせずに、そう冷静に言ってきた。
普段の短気な史郎しか知らぬ聖は、これに戸惑う。
構えたままの姿勢で、彼はどう言い返せばいいのか迷う。
「――――気は済んだか、だって? こんなもんで済むワケがないだろう! 」
そう叫んだら、また史郎はガードもせずに、棒立ちのまま口を開いた。
「だったら、気のすむまで蹴っていいぞ」
「っ!? 」
「お前が――――死んじまったらどうするかなんて、考えた事もなかった。でも、今回はそれを実感して……初めて怖いと思った」
聖はいつも、はち切れんばかりの生気に満ちている。
苛烈な閃光のように輝く瞳にはいつも力があり、どんなに過酷な状況でもそれを跳ね返す力があった。
踏みつけられ弱っても必ず立ち直るだけの気力があった。
だが、救急搬送された時の聖は、川面に揺蕩う笹の小舟よりも儚く、頼りなかった。
顔色も蠟のように白く、唇の色も紫になっていた。
そのまま水底に沈んでいく、散った花弁のように……。
――――死。
生まれて初めて知る、ゾッとするような恐怖。
史郎は、その感情に戦慄した。
本当に、芯から怖いと思ったのだ。
「オレは、お前を失いたくない。いつもいつも、そう思っていた。だから初めてお前を見た時から――オレだけのモノにしようと、無茶をした」
強引に囲い、監視を付けてがんじがらめにした。それでも、史郎を決して見ようとしない頑固な聖に焦れて、力づくで言う事をきかせようとした。
そして、ますます嫌われた。
だが、そんな事はどうでもよかった。
ただ、傍に置きたかった。
聖の感情など、どうでもいい。
とにかく、自分以外に目を向けないようにと、無理強いして、何度も力づくで抱いた。
その結果ますます嫌われるという悪循環。
――――そして、今回の騒動だ。
「お前が死んだら……その事に、今更ながら……本当に怖かった」
だが、聖は攻撃の手を緩めない。
立て続けに肘打ちを叩き込み、スナップを効かせた踵落としを、その頑強な体へめり込ませる。筋肉の上から無駄に拳を叩き付けるような、そんな素人の攻撃はしない。
拳法で習った、関節、骨、健と、人体の弱点を確実に突いての玄人同然の攻撃だ。
さすがに堪らず、史郎は膝を着いた。
「っ――」
「さぁどうした!? やり返さないのか! 」
構えたまま挑発すると、史郎はゆらりと立ち上がった。
来るかと思い、身構えるが――――。
「……気は済んだか? 」
なんと、史郎は反撃もせずに、そう冷静に言ってきた。
普段の短気な史郎しか知らぬ聖は、これに戸惑う。
構えたままの姿勢で、彼はどう言い返せばいいのか迷う。
「――――気は済んだか、だって? こんなもんで済むワケがないだろう! 」
そう叫んだら、また史郎はガードもせずに、棒立ちのまま口を開いた。
「だったら、気のすむまで蹴っていいぞ」
「っ!? 」
「お前が――――死んじまったらどうするかなんて、考えた事もなかった。でも、今回はそれを実感して……初めて怖いと思った」
聖はいつも、はち切れんばかりの生気に満ちている。
苛烈な閃光のように輝く瞳にはいつも力があり、どんなに過酷な状況でもそれを跳ね返す力があった。
踏みつけられ弱っても必ず立ち直るだけの気力があった。
だが、救急搬送された時の聖は、川面に揺蕩う笹の小舟よりも儚く、頼りなかった。
顔色も蠟のように白く、唇の色も紫になっていた。
そのまま水底に沈んでいく、散った花弁のように……。
――――死。
生まれて初めて知る、ゾッとするような恐怖。
史郎は、その感情に戦慄した。
本当に、芯から怖いと思ったのだ。
「オレは、お前を失いたくない。いつもいつも、そう思っていた。だから初めてお前を見た時から――オレだけのモノにしようと、無茶をした」
強引に囲い、監視を付けてがんじがらめにした。それでも、史郎を決して見ようとしない頑固な聖に焦れて、力づくで言う事をきかせようとした。
そして、ますます嫌われた。
だが、そんな事はどうでもよかった。
ただ、傍に置きたかった。
聖の感情など、どうでもいい。
とにかく、自分以外に目を向けないようにと、無理強いして、何度も力づくで抱いた。
その結果ますます嫌われるという悪循環。
――――そして、今回の騒動だ。
「お前が死んだら……その事に、今更ながら……本当に怖かった」
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