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最終章
最終章-1
しおりを挟む病み上がりというのは、思った以上に身体が弱っているものだな。
その事を実感し、聖は倦怠感の取れない身体を、車の後部座席へ埋めた。
「――大丈夫ですか? 」
真壁は車を運転しながら、その様子をバックミラーで視認すると、聖の体調を気遣う言葉を掛けた。聖はこれに『大丈夫だ』と返し、眉間をキュッと指で揉む。
退院し、しばらくの間は、今まで住んでいたマンションで療養しながら、自宅で出来るデスクワークを片付けることにしている。
そして少し落ち着いたら、今のマンションは売って、聖はもっと小さな部屋へ移る事にしていた。
あのマンションは元々、銀行からカネを借りる際に抵当に入っていたので、今回はこれを手放す事になった。
それは、もう仕方のないことだ。
そもそも、上京してくるユウと一緒に暮らそうとして、買ったマンションだ。
そして何度もユウを誘ったが、彼は彼で既に住処を決めてしまっていて、一緒に暮らすのはどうやらムリとなった。
寂しいがこの際サッパリと切り替えるのが良いだろう。
今のマンションは買ってから二年も経っていない、きっといい値で売れる。
ジュピタープロの再建の為だ。
惜しくはない。
(まぁ、いいさ。全部仕切り直しだ。今度はもっとデカい家でも買ってやるさ)
幸いなことに、沙也加を始めとしたジュピタープロのタレント達は、快方に向かっている。近いうちに復帰できるだろう。
文冬では、ジュピタープロの麻薬汚染より、現行の合法ドラッグの危険性を注視した記事を連載特集し、有難いことに世間の関心はそちらの方へ移っている。
(あの記者にも、近い内に礼をしないとな)
そんな事を思っていたら車はマンションの駐車場に滑り込みそこでピタリと停車した。
「――――御堂社長」
「ん、着いたか? 」
「あいつが、います」
真壁の緊張した声に顔を上げると、男が一人マンション入り口に立ってるのが見えた。
「――青菱史郎……」
「どうします? このまま車を、天黄の事務所かお屋敷に向かわせますか? 何だったら、狭いですけど――け、結構キレイにしてるんですよ? オレのアパートでも……」
何故か、顔を赤くしてゴニョゴニョと言い募る真壁を無視して、聖は車から降りた。
そして真っ直ぐに、史郎を睨みつけながら歩を進める。
聖は、怒っていた。だって、そうだろう。
今回の事もそうだし、沙也加達タレントがドラッグに手を出したのも、史郎の仕業だ。
申し訳なかったと、聖に詫びの一つも入れるのが当たり前だろう!?
頭に来て仕方がない。
「史郎! 」
気合一発。聖は宙で身体を反転させ、勢いをつけて蹴りを繰り出す。
当然、聖の攻撃をガードするかと思ったが、何と史郎はその蹴りをまともに受けた。
――――ドカッ!!
「ヴッ……」
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