ナラズモノ

亜衣藍

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「はいっ」

「あいつらを始末しろ。生かしておいたら、絶対にあいつらの口から、聖がここにいる事が洩れちまう」

「ええっ! しかし、そうなると合法ドラッグはどうなるんです? まだ製造方法を手に入れてないですよ? 」

 尤もな問い掛けに、安永は、そんな物はもうどうでもいいと頭を振る。

 そして、白濁の汚泥の中で小さく震えている聖の身体を、急いでタオルで包む。

「こいつさえ手に入ったらオレは本望だ。青菱の若頭だろうと何だろうと渡すもんかよ」

「しかし――」

「早く車を用意しろ! こうなったら、直接こいつを大西の所へ連れて行く! 直ぐに連絡を取り直せ、口は堅いハズだっ! 」

 せっかく手に入れた宝を、ここで壊してしまっては元も子もない。

 一度くらいなら味を見るのもいいだろうと思い、無茶はするなと念を押したつもりだったが、あんなバカなガキどもなど、最初から信用するべきではなかった。

 汚れた身体を拭ってやりながら安永は激しく後悔する。日夜この美体を安永の自由にできる、ようやく巡ってきたチャンスなのだ。


 絶対に、逃すわけにはいかない。


 地下に閉じ込めて可愛がるか、どこかの離れ小島に閉じ込めてゆっくりと調教するか。

 考えただけで、安永は興奮を覚えて仕方がない。
 
 今すぐにでも、聖の身体にむしゃぶりつきたいのを堪え、配下を振り返る。

「さぁ、連れて行くぞ! 」

「はいっ」

 逞しい護衛の腕に抱え上げられながら、聖は小さく呻いた。

「う……」

 焦点の合わない瞳を瞬かせ、かすかに唇を動かす。

「いかな……と。一緒にくら――そ……て」



 夢を見ていた。長い夢を。



 それは、聖が……聖自身が、子供の頃から夢見ていた、切なく哀しい夢だった。

 他の家のように、オレも、親子仲良く暮らしたいのに、と。温かい家庭に、オレも、ずっとずっと憧れていたのだと――――。

 寂しくて孤独な、冷たいだけの養護施設で、温かい家庭を夢想していた。優しい両親に愛される、幸せな子供が羨ましいと。


 夢見ながら、聖は今度こそ意識を失った。



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