57 / 102
14
14-2
しおりを挟む
ゴシップ・ジャーナルの総本山と揶揄される『文冬』の、小野寺豊編集部長の元を直接訪れ、聖は今回のスキャンダル記事を、どうにか良心的に取り扱ってくれと申し合わせた。
◇
「あんた、面白い男だね」
無精ひげの浮いた顎を撫でながら、小野寺は、頭を下げたままの聖を見てそう評した。
「は……私が、ですか? 」
顔を上げ、思わずそう訊き返すと、小野寺はニヤリと笑った。
「こっちもコレが本業だからね。あんたの情報は色々入ってきているよ。カネなんざ、幾らでも貢ぎたがる男がいるのに、それを全部袖にして、この一ヵ月カタギ相手に奔走しているヤクザがいるって」
「……」
「どうしてなのかな? 一つ、参考までに聞いておきたいね。ヤクザよりも、カタギの男の方がお好みかい? 」
露骨な揶揄に、聖は一瞬だけ怒りを顔に出したが、すぐに苦笑いに変わった。
「別に、そんなワケじゃない。大体オレは、男は嫌いなんだ」
「ほぉ? 」
意外な答えに、小野寺は目を見開く。
「そうなのかい? あんた、そんなに別嬪だし、相当モテるだろうに」
「オレの見てくれは置いとくとしてだ――――とにかく、男なんざぁクセーわ汚ねぇわ、ゴツゴツして硬ぇし、とても好きにはなれねぇよ。抱くなら絶対女がいいだろうに、どいつもこいつも、どうしてオレなんざ相手にしたがるんだか気が知れないね」
それは、紛う事なき聖の本音だった。
この、中身と外見の乖離が、そもそもの聖の悲劇なのであろう。
そう悟り、小野寺は声に出して笑った。
「ハハハハ! そりゃあ、あんたに惚れちまった野郎には残念な事だ。一生、熱い想いは叶わないんだからな」
「あのな――」
「ああ、いい、いい。分かったよ。オレはあんたみたいな奴は好きだよ。ようするに、カタギ路線で行きたいのに青菱が横槍を入れて邪魔をしたって事だろう? 」
さすがジャーナリスト。そのくらいの情報は、既に入手済みだ。
「オレは弱きものの味方だ。こう見えても、ジャーナリストだからな」
「? 」
「さすがに青菱の名を正面から出すと、こっちの首がヤバいからな。そこは名を出せないが、あんたの所のドラッグ・スキャンダルは、お涙頂戴で書いてやるよ」
パチリとウィンクをして、小野寺は約束をした。随分とお気楽に言ったが、多分、この男は嘘をつく事はないだろう。
聖は、ホッと胸を撫で下ろした。
ここしばらく生きた心地がしなかったが、これでようやく一息つける。
「……昔、週刊誌に面白おかしく書かれて――それ以来マスコミってやつは嫌いだったが、あんたのような野郎もいるんだな。恩に着るぜ」
礼を言うと、相手はいたずらっ子のように笑った。
「それじゃあ今度、一杯奢らせてくれ。あんたみたいな美人を連れて、いっぺん銀座を流してみたい」
◇
「あんた、面白い男だね」
無精ひげの浮いた顎を撫でながら、小野寺は、頭を下げたままの聖を見てそう評した。
「は……私が、ですか? 」
顔を上げ、思わずそう訊き返すと、小野寺はニヤリと笑った。
「こっちもコレが本業だからね。あんたの情報は色々入ってきているよ。カネなんざ、幾らでも貢ぎたがる男がいるのに、それを全部袖にして、この一ヵ月カタギ相手に奔走しているヤクザがいるって」
「……」
「どうしてなのかな? 一つ、参考までに聞いておきたいね。ヤクザよりも、カタギの男の方がお好みかい? 」
露骨な揶揄に、聖は一瞬だけ怒りを顔に出したが、すぐに苦笑いに変わった。
「別に、そんなワケじゃない。大体オレは、男は嫌いなんだ」
「ほぉ? 」
意外な答えに、小野寺は目を見開く。
「そうなのかい? あんた、そんなに別嬪だし、相当モテるだろうに」
「オレの見てくれは置いとくとしてだ――――とにかく、男なんざぁクセーわ汚ねぇわ、ゴツゴツして硬ぇし、とても好きにはなれねぇよ。抱くなら絶対女がいいだろうに、どいつもこいつも、どうしてオレなんざ相手にしたがるんだか気が知れないね」
それは、紛う事なき聖の本音だった。
この、中身と外見の乖離が、そもそもの聖の悲劇なのであろう。
そう悟り、小野寺は声に出して笑った。
「ハハハハ! そりゃあ、あんたに惚れちまった野郎には残念な事だ。一生、熱い想いは叶わないんだからな」
「あのな――」
「ああ、いい、いい。分かったよ。オレはあんたみたいな奴は好きだよ。ようするに、カタギ路線で行きたいのに青菱が横槍を入れて邪魔をしたって事だろう? 」
さすがジャーナリスト。そのくらいの情報は、既に入手済みだ。
「オレは弱きものの味方だ。こう見えても、ジャーナリストだからな」
「? 」
「さすがに青菱の名を正面から出すと、こっちの首がヤバいからな。そこは名を出せないが、あんたの所のドラッグ・スキャンダルは、お涙頂戴で書いてやるよ」
パチリとウィンクをして、小野寺は約束をした。随分とお気楽に言ったが、多分、この男は嘘をつく事はないだろう。
聖は、ホッと胸を撫で下ろした。
ここしばらく生きた心地がしなかったが、これでようやく一息つける。
「……昔、週刊誌に面白おかしく書かれて――それ以来マスコミってやつは嫌いだったが、あんたのような野郎もいるんだな。恩に着るぜ」
礼を言うと、相手はいたずらっ子のように笑った。
「それじゃあ今度、一杯奢らせてくれ。あんたみたいな美人を連れて、いっぺん銀座を流してみたい」
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
ワルモノ
亜衣藍
BL
西暦1988年、昭和の最後の年となる63年、15歳の少年は一人東京へ降り立った……!
後に『傾国の美女』と讃えられるようになる美貌の青年、御堂聖の物語です。
今作は、15歳の聖少年が、極道の世界へ飛び込む切っ掛けとなる話です。
舞台は昭和末期!
時事ネタも交えた意欲作となっております。
ありきたりなBLでは物足りないという方は、是非お立ち寄りください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる