ナラズモノ

亜衣藍

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 それと入れ替えに、今度は四課の刑事が顔を出した。

「よぉ若旦那。少しは元気になったかよ?」

 いつもなら、若旦那と揶揄されても朗らかに笑って返していた綾瀬であるが、彼は人が変わったように、険しく鋭いままだ。

「……工藤、何か青菱の動きが分かったのか? 」

「いいや。あすこも大所帯だからなぁ。しかし、ちと気になる情報が入ってきた」

「何だ? 」

「青菱会系の天黄組がバックで、ジュピタープロダクションって芸能事務所があるんだが、そこの看板女優や俳優が次々と休業になった」

「それが? 」

「合法ドラッグ『花圃ファフゥ』の乱用だってよ」

 綾瀬の眦が、キリリと吊り上がった。

 それは、花蓮を死に追い遣った合法ドラッグの名であり、現在追っている半グレ集団【黒龍】の取り扱っている合法ドラッグの名であった。

   ◇

「クソッ! オレの家が――! 」

 まだ顔に幼さを残している男は、炎を上げる実家を目の前にして凍り付いていた。

 高校生の弟は先月バイクに轢き逃げされ、重体で入院中だ。父親は駅のホームに突き落とされ、危うく死にかけた。

 母親と妹はショッピング帰りに何者かにレイプされ、今も入院している。

 家も家族も次々と襲撃を受け、男の仲間たちも、同じような被害に遭っていた。

 これが、本職ヤクザを怒らせるという事か――と、今になって男は恐怖に震えた。

「森村! お前の家もやられたかっ!? 」

 チームのホンが、炎を上げる森村の家を見て駆けつけてきたらしい。

 呆然と立ち尽くす男の隣に寄り添い、擦れた声を上げた。

「――――これで、チームは全滅だぜ……」

 犯人はハッキリしている。

 青菱組というヤクザだ。

 最初は、こっちの方が立場が上だと信じていた。

 何といっても、合法ドラッグ『花圃ファフゥ』の製造方法を知っているのは森村のチーム【黒龍】だけなのだし、それと取引がしたいと最初に下手に申し出てきたのは、青菱の方だったのだから。

 森村達【黒龍】は、ヤクザが自分たちに頭を下げて来たと、調子に乗った。

 かなりの額のカネを要求し、またそれが叶うと、今度は銃が欲しいとヤクザ相手に要求した。

――――彼らは若く、好奇心旺盛だった。

 本物の銃など見た事も触ったこともない。だから、本物を手にしてみたい。

 そんな、無邪気な子供のような彼らの要求を、あろうことか青菱はまた呑んだ。

 実弾を外した回転式拳銃を、一丁だけ与えて寄こしたのだ。

 これを受け、【黒龍】は、更に増長した。

 自分たちの言う事には、ヤクザだろうと何だろうと、必ず従うのだと。

 自らの力に有頂天になった未熟な彼らは、もう歯止めが利かなかった。

 青菱と交わした最初の約束では、カネと拳銃を受け取った後、その合法ドラッグの製造方法を青菱へ譲渡するハズだったのだが、彼らは金の卵ドラッグを産む雌鶏設計図を手放すのを渋った。

 そして、彼らはヤクザの縄張りを無視して、自分たちの手でドラッグを捌き出したのだ。

 しかしそれは、すぐに青菱に知られ激怒された。

 元々、【黒龍】は強盗窃盗団として都内でかなり暴れており、更にそこに合法ドラッグの製造まで始めたのだから、これ以上、警察にマークされては青菱としても都合が悪い。

 青菱組としては、暴対法の網の目を潜る為にも、あくまで半グレとは一線を画す必要があった。

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