53 / 102
13
13-2
しおりを挟む
それと入れ替えに、今度は四課の刑事が顔を出した。
「よぉ若旦那。少しは元気になったかよ?」
いつもなら、若旦那と揶揄されても朗らかに笑って返していた綾瀬であるが、彼は人が変わったように、険しく鋭いままだ。
「……工藤、何か青菱の動きが分かったのか? 」
「いいや。あすこも大所帯だからなぁ。しかし、ちと気になる情報が入ってきた」
「何だ? 」
「青菱会系の天黄組がバックで、ジュピタープロダクションって芸能事務所があるんだが、そこの看板女優や俳優が次々と休業になった」
「それが? 」
「合法ドラッグ『花圃』の乱用だってよ」
綾瀬の眦が、キリリと吊り上がった。
それは、花蓮を死に追い遣った合法ドラッグの名であり、現在追っている半グレ集団【黒龍】の取り扱っている合法ドラッグの名であった。
◇
「クソッ! オレの家が――! 」
まだ顔に幼さを残している男は、炎を上げる実家を目の前にして凍り付いていた。
高校生の弟は先月バイクに轢き逃げされ、重体で入院中だ。父親は駅のホームに突き落とされ、危うく死にかけた。
母親と妹はショッピング帰りに何者かにレイプされ、今も入院している。
家も家族も次々と襲撃を受け、男の仲間たちも、同じような被害に遭っていた。
これが、本職を怒らせるという事か――と、今になって男は恐怖に震えた。
「森村! お前の家もやられたかっ!? 」
チームの紅が、炎を上げる森村の家を見て駆けつけてきたらしい。
呆然と立ち尽くす男の隣に寄り添い、擦れた声を上げた。
「――――これで、チームは全滅だぜ……」
犯人はハッキリしている。
青菱組というヤクザだ。
最初は、こっちの方が立場が上だと信じていた。
何といっても、合法ドラッグ『花圃』の製造方法を知っているのは森村のチーム【黒龍】だけなのだし、それと取引がしたいと最初に下手に申し出てきたのは、青菱の方だったのだから。
森村達【黒龍】は、ヤクザが自分たちに頭を下げて来たと、調子に乗った。
かなりの額のカネを要求し、またそれが叶うと、今度は銃が欲しいとヤクザ相手に要求した。
――――彼らは若く、好奇心旺盛だった。
本物の銃など見た事も触ったこともない。だから、本物を手にしてみたい。
そんな、無邪気な子供のような彼らの要求を、あろうことか青菱はまた呑んだ。
実弾を外した回転式拳銃を、一丁だけ与えて寄こしたのだ。
これを受け、【黒龍】は、更に増長した。
自分たちの言う事には、ヤクザだろうと何だろうと、必ず従うのだと。
自らの力に有頂天になった未熟な彼らは、もう歯止めが利かなかった。
青菱と交わした最初の約束では、カネと拳銃を受け取った後、その合法ドラッグの製造方法を青菱へ譲渡するハズだったのだが、彼らは金の卵を産む雌鶏を手放すのを渋った。
そして、彼らはヤクザの縄張りを無視して、自分たちの手でドラッグを捌き出したのだ。
しかしそれは、すぐに青菱に知られ激怒された。
元々、【黒龍】は強盗窃盗団として都内でかなり暴れており、更にそこに合法ドラッグの製造まで始めたのだから、これ以上、警察にマークされては青菱としても都合が悪い。
青菱組としては、暴対法の網の目を潜る為にも、あくまで半グレとは一線を画す必要があった。
「よぉ若旦那。少しは元気になったかよ?」
いつもなら、若旦那と揶揄されても朗らかに笑って返していた綾瀬であるが、彼は人が変わったように、険しく鋭いままだ。
「……工藤、何か青菱の動きが分かったのか? 」
「いいや。あすこも大所帯だからなぁ。しかし、ちと気になる情報が入ってきた」
「何だ? 」
「青菱会系の天黄組がバックで、ジュピタープロダクションって芸能事務所があるんだが、そこの看板女優や俳優が次々と休業になった」
「それが? 」
「合法ドラッグ『花圃』の乱用だってよ」
綾瀬の眦が、キリリと吊り上がった。
それは、花蓮を死に追い遣った合法ドラッグの名であり、現在追っている半グレ集団【黒龍】の取り扱っている合法ドラッグの名であった。
◇
「クソッ! オレの家が――! 」
まだ顔に幼さを残している男は、炎を上げる実家を目の前にして凍り付いていた。
高校生の弟は先月バイクに轢き逃げされ、重体で入院中だ。父親は駅のホームに突き落とされ、危うく死にかけた。
母親と妹はショッピング帰りに何者かにレイプされ、今も入院している。
家も家族も次々と襲撃を受け、男の仲間たちも、同じような被害に遭っていた。
これが、本職を怒らせるという事か――と、今になって男は恐怖に震えた。
「森村! お前の家もやられたかっ!? 」
チームの紅が、炎を上げる森村の家を見て駆けつけてきたらしい。
呆然と立ち尽くす男の隣に寄り添い、擦れた声を上げた。
「――――これで、チームは全滅だぜ……」
犯人はハッキリしている。
青菱組というヤクザだ。
最初は、こっちの方が立場が上だと信じていた。
何といっても、合法ドラッグ『花圃』の製造方法を知っているのは森村のチーム【黒龍】だけなのだし、それと取引がしたいと最初に下手に申し出てきたのは、青菱の方だったのだから。
森村達【黒龍】は、ヤクザが自分たちに頭を下げて来たと、調子に乗った。
かなりの額のカネを要求し、またそれが叶うと、今度は銃が欲しいとヤクザ相手に要求した。
――――彼らは若く、好奇心旺盛だった。
本物の銃など見た事も触ったこともない。だから、本物を手にしてみたい。
そんな、無邪気な子供のような彼らの要求を、あろうことか青菱はまた呑んだ。
実弾を外した回転式拳銃を、一丁だけ与えて寄こしたのだ。
これを受け、【黒龍】は、更に増長した。
自分たちの言う事には、ヤクザだろうと何だろうと、必ず従うのだと。
自らの力に有頂天になった未熟な彼らは、もう歯止めが利かなかった。
青菱と交わした最初の約束では、カネと拳銃を受け取った後、その合法ドラッグの製造方法を青菱へ譲渡するハズだったのだが、彼らは金の卵を産む雌鶏を手放すのを渋った。
そして、彼らはヤクザの縄張りを無視して、自分たちの手でドラッグを捌き出したのだ。
しかしそれは、すぐに青菱に知られ激怒された。
元々、【黒龍】は強盗窃盗団として都内でかなり暴れており、更にそこに合法ドラッグの製造まで始めたのだから、これ以上、警察にマークされては青菱としても都合が悪い。
青菱組としては、暴対法の網の目を潜る為にも、あくまで半グレとは一線を画す必要があった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ワルモノ
亜衣藍
BL
西暦1988年、昭和の最後の年となる63年、15歳の少年は一人東京へ降り立った……!
後に『傾国の美女』と讃えられるようになる美貌の青年、御堂聖の物語です。
今作は、15歳の聖少年が、極道の世界へ飛び込む切っ掛けとなる話です。
舞台は昭和末期!
時事ネタも交えた意欲作となっております。
ありきたりなBLでは物足りないという方は、是非お立ち寄りください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる