ナラズモノ

亜衣藍

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「言っておくけど、クスリやってんのあたしだけじゃあないよぉ。美幸も、サトルも、みーんなやってるよ。だってさ、あの人、気前よく幾らでもタダでくれんだもん。試さなきゃソンだってーのぉ! この業界、ストレスだらけなんだからさぁ」

 キャハハ……とけたたましく笑いながら、沙也加は真壁に連れられて消えて行った。

 青ざめながら、聖は携帯電話の番号を押す。

 何度かのコールの後、相手が出た。

「よぉ、思ったよりも結構かかったな」

「貴様っ!? どういうつもりだ! 」

「たまには、そっちから電話がもらいたくてなぁ」

 電話の相手は、青菱史郎だ。

 聖は怒りでワナワナと震えながら、口を開く。

「どうして、ウチのタレントに手を出した!? 天黄組を敵に回す気か? 」

 それなら、これは深刻な青菱会系連合組織での、内紛になる。

 聖への意趣返しに、どこかの組織が何か嫌がらせ程度の事を仕掛けてくるかもしれないとは警戒していたが、まさか史郎がやるとは思わなかった。

 しかも、こんな最悪の手を使うとは!

「――覚せい剤か? 」

「違うね」

 電話の向こうで、史郎のせせら笑いが聞こえる。

「合法ドラッグさ。ハーブとかを調合して作る、新しい麻薬のような代物だ」

(※合法ドラッグはその後度々名称を変え、2014年に危険ドラッグと名付けられる。英語名はリーガル・ハイ。覚せい剤や大麻のように、既に規制されていた麻薬ではなかったので、法の整備が整う以前は堂々と繁華街で売られていたりした。作り方は、それぞれの麻薬の化学構造に近づけ、類似させて製造する。つまりある意味純正品・・・・・・ではない為、急性中毒症状を起こして死亡する例も多かった)

「合法ドラッグ、だと!? 」

――――そんなもの、青菱で取り扱っていたなどと、今まで聞いたことがない。

「青菱は大麻が主力だったんじゃないのか? いつから、そんなモノを――」

「時代だよ、時代。覚せい剤や大麻は取り締まりがキツイしな。こっちも、頭を使ってシノギしねーとダメってことだ」

「どうして、それをウチのタレントに……」

 聖の疑問に、史郎は冷たい声で答えた。

「お前、マジでカタギになる気らしいな? 」

「っ! 」

「あちこち突いて、ようやっと確証したぜ。お前はいづれ天黄からも全株を買い取って、独立する気だってな。そして、堂々とカタギになるつもりだと――ヤクザと縁を切って、それで目出度し目出度しだってな」

「だからって、あんたには関係ないだろう」

「こないだのガキの写真は――あれから色々考えたが、ジュピタープロの新人子役なんだろう? まさか、青田刈りする程そっちの業界にシフトしていたとは思わなかったぜ。住み込みで役者ガキを育ててまで、ジュピタープロは役者陣を充実する戦略と見たが、これで一気に看板を下ろして逆に負債を抱える事になったな」

(ユウの事は、本当にタレントだと信じてくれたか――それは助かったが……)

 幸いにも、ユウの正体は知られていないようではあるが、この事態は深刻だ。

 看板の俳優を一気に失っては、芸能プロの存続が危うい。

 しかも、ジュピタープロダクションは、それまでの灰色のイメージを払拭しようと躍起になっていた矢先での、この事態だ。

 事務所の麻薬汚染――――それが例え合法ドラッグといえども、これが明るみに出れば、再びイメージが漆黒になるのは必須だ。

「なんて――なんて、ことを……」

 これでは、この芸能事務所へユウを迎え入れることなど、とても出来ない。

(やっと――やっと、……)

 路上ライブで、ユウがよく出没している場所を、近頃ようやく絞り込んだというのに。

 これから慎重に様子を見て――今度は邪魔の入らない場所を選んで、今週末にでも自然に接触しようと密かに計画していたのが、全て台無しだ。

 まさか、こんな真っ黒の芸能事務所へ来てくれなどとは、口が裂けても言えない。

 ユウの、歌手としてのイメージは最悪なものになってしまう。

 いや、そもそも、こうなってはジュピタープロダクションを存続させる事自体も、困難だ。

 四方八方手を尽くして、どこまでダメージを抑えることが出来るのか?

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