ナラズモノ

亜衣藍

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 そう、聖は、これだけの目に遭いながらも、相変わらず凍り付いた月下の花のように美しかった。

 だが、本人にしたら、そんな賛辞など迷惑千万もいいところだ。

 聖は、もう少女のように可憐だった子供ではない。二十七の、立派な大人の男だ。

 誰かに愛玩され、庇護されるような生き物・・・・・・・・・・・・・・・ではない。

(……? )

 何かが、聖の心に引っ掛かった。

――――今、そう、何かが。

 しかし、熱いシャワーを浴びていたらまた意識が茫洋となり、その思考は遠ざかった。

 代わりに浮かんできたのは、史郎に奪われたユウの写真の事だ。

 あんなに大事にしていたのに、とうとう取られてしまった。

「う、う……」

 堪え切れぬ涙が、聖の頬を伝う。

 そして、一日千秋の思いで待ちわびた親子の対面が、あんな結果に終わってしまった事に打ちひしがれる。



 もっと、ちゃんとした場所で逢いたかった。この想いを、丁寧に言葉にして伝えたかった。

 きっとユウは、東京で怖い思いをしたのだろう。

 だから、気分が悪くなって、あんな事を聖に言ってしまったのだろうと、思う。

(ユウ……大丈夫、オレはこんな事でお前の事を嫌いにはならない。お前だって、本心であんな事を言ったワケじゃないんだろう? )

 怒ったりしないから、逃げないで聞いてほしい。

 ミュージシャンになるなんて、そうそう簡単に叶わない夢だ。

 そこのところを、ちゃんとユウに説明して説得すれば、ジュピタープロダクションに在籍すると承諾してくれるはずだ。

 それが、間違いのないミュージシャンへの近道なのだから。

 お前の力になりたくて、それだけで、ここまで来た。

 親子一緒に暮らしたくて、それだけを夢見ていた。

 一度拒絶されたくらいで、諦めるワケにはいかない。

 自分が――父親が、子供を全力で守ってやらなければ。

(……幸い、ヤツが手に入れたのはユウが子供の頃の写真だ。今の、十五歳のユウにはそうそう結びつかないだろう)

 一晩責め抜かれたが、聖は口を割らなかった。

 ただ一言、

「オレが誰を想おうと、お前には関係ない」

 と、苦し紛れに言ったのだが、何を考えたかそれでようやく引き上げてくれた。

 写真は返してもらえなかったが――……。

(しかし今日はもう、何もかもムリだ。真壁にスケジュールの調整を頼むしか……)

 思ったそばから、意識が遠ざかる。

「真壁……」

   ◇

 遅いので、心配になってシャワー室を覗いたら、聖がタイルの上に倒れていた。

 真壁は慌てて、寝室へと聖を運ぶ。

 濡れた身体をバスタオルで拭き、バスローブを着せかけ、再び新しく敷きなおしたシーツの上へと、そっとその身体を横たえた。

 肩をかなり強く殴られたのか、そこは腫れて熱を持っていたが、とりあえず心配するような酷いケガはないようだ。

 疲労困憊の為か、聖はスイッチが切れたように静かに眠っている。

 それを見た真壁は、自身の判断で、聖の芸能事務所の社長としてのスケジュール調整と、極道としての務めの変更を申し入れた。

 とりあえずこれで、今日一日の休暇は確保できた。

「御堂さん――あんたは、何でそんなに……」

 その後は言葉にならず、ただひっそりと、真壁は聖の頬を撫でた。

 もしかして、これは恋かと意識したのが、それが初めてだった。

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