47 / 102
11
11-2
しおりを挟む
そう、聖は、これだけの目に遭いながらも、相変わらず凍り付いた月下の花のように美しかった。
だが、本人にしたら、そんな賛辞など迷惑千万もいいところだ。
聖は、もう少女のように可憐だった子供ではない。二十七の、立派な大人の男だ。
誰かに愛玩され、庇護されるような生き物ではない。
(……? )
何かが、聖の心に引っ掛かった。
――――今、そう、何かが。
しかし、熱いシャワーを浴びていたらまた意識が茫洋となり、その思考は遠ざかった。
代わりに浮かんできたのは、史郎に奪われたユウの写真の事だ。
あんなに大事にしていたのに、とうとう取られてしまった。
「う、う……」
堪え切れぬ涙が、聖の頬を伝う。
そして、一日千秋の思いで待ちわびた親子の対面が、あんな結果に終わってしまった事に打ちひしがれる。
もっと、ちゃんとした場所で逢いたかった。この想いを、丁寧に言葉にして伝えたかった。
きっとユウは、東京で怖い思いをしたのだろう。
だから、気分が悪くなって、あんな事を聖に言ってしまったのだろうと、思う。
(ユウ……大丈夫、オレはこんな事でお前の事を嫌いにはならない。お前だって、本心であんな事を言ったワケじゃないんだろう? )
怒ったりしないから、逃げないで聞いてほしい。
ミュージシャンになるなんて、そうそう簡単に叶わない夢だ。
そこのところを、ちゃんとユウに説明して説得すれば、ジュピタープロダクションに在籍すると承諾してくれるはずだ。
それが、間違いのないミュージシャンへの近道なのだから。
お前の力になりたくて、それだけで、ここまで来た。
親子一緒に暮らしたくて、それだけを夢見ていた。
一度拒絶されたくらいで、諦めるワケにはいかない。
自分が――父親が、子供を全力で守ってやらなければ。
(……幸い、ヤツが手に入れたのはユウが子供の頃の写真だ。今の、十五歳のユウにはそうそう結びつかないだろう)
一晩責め抜かれたが、聖は口を割らなかった。
ただ一言、
「オレが誰を想おうと、お前には関係ない」
と、苦し紛れに言ったのだが、何を考えたかそれでようやく引き上げてくれた。
写真は返してもらえなかったが――……。
(しかし今日はもう、何もかもムリだ。真壁にスケジュールの調整を頼むしか……)
思ったそばから、意識が遠ざかる。
「真壁……」
◇
遅いので、心配になってシャワー室を覗いたら、聖がタイルの上に倒れていた。
真壁は慌てて、寝室へと聖を運ぶ。
濡れた身体をバスタオルで拭き、バスローブを着せかけ、再び新しく敷きなおしたシーツの上へと、そっとその身体を横たえた。
肩をかなり強く殴られたのか、そこは腫れて熱を持っていたが、とりあえず心配するような酷いケガはないようだ。
疲労困憊の為か、聖はスイッチが切れたように静かに眠っている。
それを見た真壁は、自身の判断で、聖の芸能事務所の社長としてのスケジュール調整と、極道としての務めの変更を申し入れた。
とりあえずこれで、今日一日の休暇は確保できた。
「御堂さん――あんたは、何でそんなに……」
その後は言葉にならず、ただひっそりと、真壁は聖の頬を撫でた。
もしかして、これは恋かと意識したのが、それが初めてだった。
だが、本人にしたら、そんな賛辞など迷惑千万もいいところだ。
聖は、もう少女のように可憐だった子供ではない。二十七の、立派な大人の男だ。
誰かに愛玩され、庇護されるような生き物ではない。
(……? )
何かが、聖の心に引っ掛かった。
――――今、そう、何かが。
しかし、熱いシャワーを浴びていたらまた意識が茫洋となり、その思考は遠ざかった。
代わりに浮かんできたのは、史郎に奪われたユウの写真の事だ。
あんなに大事にしていたのに、とうとう取られてしまった。
「う、う……」
堪え切れぬ涙が、聖の頬を伝う。
そして、一日千秋の思いで待ちわびた親子の対面が、あんな結果に終わってしまった事に打ちひしがれる。
もっと、ちゃんとした場所で逢いたかった。この想いを、丁寧に言葉にして伝えたかった。
きっとユウは、東京で怖い思いをしたのだろう。
だから、気分が悪くなって、あんな事を聖に言ってしまったのだろうと、思う。
(ユウ……大丈夫、オレはこんな事でお前の事を嫌いにはならない。お前だって、本心であんな事を言ったワケじゃないんだろう? )
怒ったりしないから、逃げないで聞いてほしい。
ミュージシャンになるなんて、そうそう簡単に叶わない夢だ。
そこのところを、ちゃんとユウに説明して説得すれば、ジュピタープロダクションに在籍すると承諾してくれるはずだ。
それが、間違いのないミュージシャンへの近道なのだから。
お前の力になりたくて、それだけで、ここまで来た。
親子一緒に暮らしたくて、それだけを夢見ていた。
一度拒絶されたくらいで、諦めるワケにはいかない。
自分が――父親が、子供を全力で守ってやらなければ。
(……幸い、ヤツが手に入れたのはユウが子供の頃の写真だ。今の、十五歳のユウにはそうそう結びつかないだろう)
一晩責め抜かれたが、聖は口を割らなかった。
ただ一言、
「オレが誰を想おうと、お前には関係ない」
と、苦し紛れに言ったのだが、何を考えたかそれでようやく引き上げてくれた。
写真は返してもらえなかったが――……。
(しかし今日はもう、何もかもムリだ。真壁にスケジュールの調整を頼むしか……)
思ったそばから、意識が遠ざかる。
「真壁……」
◇
遅いので、心配になってシャワー室を覗いたら、聖がタイルの上に倒れていた。
真壁は慌てて、寝室へと聖を運ぶ。
濡れた身体をバスタオルで拭き、バスローブを着せかけ、再び新しく敷きなおしたシーツの上へと、そっとその身体を横たえた。
肩をかなり強く殴られたのか、そこは腫れて熱を持っていたが、とりあえず心配するような酷いケガはないようだ。
疲労困憊の為か、聖はスイッチが切れたように静かに眠っている。
それを見た真壁は、自身の判断で、聖の芸能事務所の社長としてのスケジュール調整と、極道としての務めの変更を申し入れた。
とりあえずこれで、今日一日の休暇は確保できた。
「御堂さん――あんたは、何でそんなに……」
その後は言葉にならず、ただひっそりと、真壁は聖の頬を撫でた。
もしかして、これは恋かと意識したのが、それが初めてだった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ワルモノ
亜衣藍
BL
西暦1988年、昭和の最後の年となる63年、15歳の少年は一人東京へ降り立った……!
後に『傾国の美女』と讃えられるようになる美貌の青年、御堂聖の物語です。
今作は、15歳の聖少年が、極道の世界へ飛び込む切っ掛けとなる話です。
舞台は昭和末期!
時事ネタも交えた意欲作となっております。
ありきたりなBLでは物足りないという方は、是非お立ち寄りください。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる