ナラズモノ

亜衣藍

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 真壁は聖を迎えに、定刻通りマンションへ車を走らせた。

 途上で、物凄いスピードですれ違ったベンツに気を取られそうになりながらも、慎重に駐車場に車を入れ、聖のマンションのインターホンを押す。

――――ピンポーン・ピンポーン

「社長、お迎えに上がりました」

 返答は、ない。

「社長? 」

 駐車場を見ると、聖の車はそのままだ。

 何かスケジュールに変更があれば、いつもなら細かく知らせてくるのだが。

 まさか、彼に限って寝過ごしているのだろうか?

「……」

 しばし悩んだが、こういった時の為に、秘書を任された真壁にはマンションの合鍵が渡されている。

「社長、直接そちらへ伺いますよ? 」

 とりあえず、真壁は一言断ってから、直通エレベーターに足を向けた。

   ◇

「なっ――!? 」

 その部屋の惨状を目の当たりにし、真壁は昨夜の聖のように、言葉を失って立ち尽くした。テーブルも引き出しも全部ひっくり返され、床に中身がばら撒かれている。

 これはまるで、嵐が過ぎ去ったような有様ではないか。

「しゃ……社長っ!? 」

 動揺しながら、真壁は辺りに視線を払う。

 一体全体、これはどうしたことだ?

 まさか、どこかの組が襲撃でもしたのだろうか?

 このマンションは、セキュリティはしっかりしていたハズだが――?

「社長っ ――――御堂さんっ! 」

 割れたガラスが散乱していたので、仕方なしに真壁は、土足のまま部屋へと上がる。

 リビングを通り、客間を覗いた後、寝室の方へ恐る恐る足を向けた。

「御堂さ……」

 言葉は、そこで止まった。

 聖は、幼い子供のように頼りない様相で、寝乱れたベッドの上で肩を落として佇んでいた。

 今の今まで、散々犯されていたようだ。

 全裸の身体のあちこちには、殴られた痕や縛られた痕が残っている。

 そして、濃厚な愛撫の痕が、これでもかと云わんばかりに印されていた。

「その、あの……」

 さっきのベンツがそれかと思い至り、なんと声を掛けたらいいものか、真壁は口を閉じたり開いたりする。

 多分、間違いなく、こんなことをしたのは青菱史郎だろう。

 天黄で、何度も噂話を耳にした。

 あそこの若頭は、御堂聖を喰い尽くす気ではなかろうかと。

 そのくらいに、狂っていると。

「御堂さん――その、シャワーを……身体を、手当しないと――」

「……」

「お、オレっ! タオルとお湯を持ってきますから、御堂さんはそのままそこに居てくださいっ」

 慌てて言い直し、真壁は急いで身をひるがえす。

 すると、聖は擦れた声で小さく呟いた。

「い、い……自分で、いく」

 よろめきながら立ち上がり、聖はふらふらとシャワーを浴びに行く。

 その足跡に、点々と滴る体液が白い線を引いたが、聖にはもうそんな事は知覚できなかった。疲れ果て、心も身体も鉛を呑んだように重い。

「御堂、さん……」

 かつて、傾国の美女と謳われた女達が、どのような末路を辿ったのか――。

(考え過ぎだ! ……だって、あの人は女じゃない。男じゃないか!? )

 だがしかし、あれ程あでやかで美しい人間を、真壁は見たことがない。

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