ナラズモノ

亜衣藍

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   ◇

「景気はどうだぃ? 」

「はっ……どうも、例の暴対法のせいでキリキリしてますが、それ以上に頭を悩ませているのは半グレって連中ですね」

「半端な素人さんは、極道と違って加減ってモンを知らねぇからなぁ」

 天黄正弘はそう言うと、ふうと溜め息をついて茶を啜った。

「――あすこのシマは、せっかく聖の野郎が切り崩した場所だ。何とか上手く収めてくれよ。お前も頭ぁ使って、半グレ連中からシマを守り切れ」

「はい」

 下座に控えながら、碇は返事をする。

 そして彼は、気になっていたことを口にした。

「あの、親分……じゃなくて、会長」

「なんでぃ」

「聖の野郎は――その、オレが入っていた二年の間に、マジで芸能事務所の社長に就いたんですね。てっきり、青菱の若頭から解放されたら、古巣の天黄で幹部に就任すると思ってたんですが……」

「オレは、それでもよかったんだがなぁ」

「では、あくまで本人の意思で? 」

「おうよ。あいつはいずれカタギになるつもりだ。その為のお勤めとして、長い事、組の為に身体を使ってくれたのさ。オレは――何度も止めたんだがなぁ……」

 正弘の腕の中で花咲いた少年は、艶やかに成長した。そのまま行けば間違いなく、彼は正弘の後継者になっていたはずだ。

 だが、彼は華々しいはずの未来を捨てて、我が子の為に生きる事へと舵を切った。

「あいつは――一途だからなぁ」

 きっと、可愛い我が子が、自分以上の地獄の中で育った事に対して、押しつぶされる程の罪悪感を感じたのだろう。

 だから『この子を幸せにしてやりたい』『この子の夢を叶えてやりたい』と切望して、その為に生き方を変えたのだ。

 聖は、切ないほどに、一途だ。

 だが、その愛が、果たして正確に相手に伝わるのだろうか?

 そもそも、そこにある大きな矛盾に、どうして気付かないのか?

 物思いに沈みそうになる正弘に、碇は問いかけた。

「何で聖は、そこまでして芸能事務所にこだわったんです? オレはやっぱり、カタギ云々じゃなくて暴対法の網をくぐるカモフラージュだとしか思えねぇんですが」

「――さぁてな。ま、色々あんのよ。こういうのはよぉ」

「はぁ……」

 不承不承といった様子で相槌を打つと、碇は、今度は違うことを口にした。

「では、今はもう青菱の若頭とは完全に離れたんで? 」

「――あの若造も、不器用なクソガキよぉ」

「? 」

「聖の心を手に入れるやり方が分からなくて、ヒステリー起こして地団駄を踏んでいやがる」

「は? 」

 そんな方法があるのなら、後学の為に聞いておきたい。

 碇は漠然とそんな事を思い、訊いてみる。

「それぁ、何です? 」

「簡単なんだがなぁ――あの若造、方法を間違ってとんでもないマネを仕出かさなきゃいいが……」

 青菱の組長も、血気盛んな跡目に生きた心地がしねぇで、さぞやハラハラしてんだろうなと、正弘は嘆息した。

 そんな正弘の前で膝をつきながら、碇は、その簡単だという方法とはいったい何なんだろうかと、そう何度も組長相手に訊き返していいものかどうか、困惑していたのだった。

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