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聖は、咄嗟に尤もな理由をペラペラと喋る。
「この間出所したばかりで、すぐに問題を起こしたら四課の連中がすっ飛んでくるぞ? お前はあそこの石塚にマークされてんだから、自覚を持て。親分も心配している。ここで一般人相手にトラブったら、それだけで充分ブチ込まれる理由になるんだ。しかも、その子はどう見ても未成年じゃないか。ヤクザと未成年ってだけで、もうヤバ過ぎだ。お前は自分のツラを見たことがないのか? 大体どうして、お前とその子が一緒にいるんだ? 本当に何かやったんじゃないだろうな?」
「はぁ? なんだそりゃ!? オレは、こいつが輩に絡まれていたのを助けたんだぞ! 」
その言葉を受け、聖はユウを振り返った。
「本当か? 」
コクリと、ユウは頷く。
ユウのギターを割った犯人たちは、この騒動で尻に火が付いたように逃げ去っていて、もうとっくにいない。路上には、無残に壊されたギターだけが残されていた。
ユウは無言のまま、そのギターを拾い上げる。
せっかく、勇気を出して歌おうとしていたのに。
大切なギターは壊され、心無い人々の無情に晒され、ユウの心は冷え切っていた。
――――そして静かに、彼は怒っていた。
「……オレは、徒党を組んでバカみたいに騒ぐ輩は昔から嫌いです」
(ユウ? )
名前を呼びたいが、それをどうにか堪えて、聖はそっとユウの肩へ手を伸ばす。
「――さ、さぁ、怖い思いをしたな。こんな場所、早く離れよう」
「……」
「どうした? ギターを壊されたのか――大丈夫、新しいのを買ってやるから」
優しい声で、聖は言う。
「何でも好きなのを買ってやるから、一緒に行こう? 」
だが、その言葉は、ユウには届かなかった。
「あなたは、ロクに事情を知りもしないで一方的にその人を蹴った。周りが無視する中、その人だけがオレを助けてくれたのに。オレは、騒いでばかりのヤツらも嫌いだけど、一方的に暴力を振るうヤツも嫌いです」
あの状況では、頭に血の上った聖が勘違いするのは仕方ないと思うが、怒りに震えているユウは、とにかく誰かにその怒りをぶつけたかった。
それが例え、理不尽な事でも。
「オレは、あなたが嫌いです」
「ユ――」
「……あなたが、オレにとって……どういう人なのかは大体分かりますが、何一つ自分ではしなかったクセに、東京に来た途端、一方的にオレに構おうとするのは気味が悪いです」
ユウの言葉を受け、聖は静かに首を振った。
そうじゃない、そうじゃないんだっ!
どんなに、親子一緒に暮らしたかったことか。
自分の未来も全て犠牲にして、それを実現させる為にどれだけ耐えたか――
「……なんスか? このガキ、御堂の知り合いっすか? 」
取り囲んでいた一人がポツリと言うのに、聖が何か答える前に、ユウが口を開いた。
「お誘いは嬉しいですが、ジュピタープロダクションには入りません。失礼します」
「――」
「お心遣いありがとうございました」
そう言い捨てると、ユウは壊れたギターを抱えて立ち去って行った。
(ユウ――! )
聖は、凍り付いたように立ち尽くしていた。
「この間出所したばかりで、すぐに問題を起こしたら四課の連中がすっ飛んでくるぞ? お前はあそこの石塚にマークされてんだから、自覚を持て。親分も心配している。ここで一般人相手にトラブったら、それだけで充分ブチ込まれる理由になるんだ。しかも、その子はどう見ても未成年じゃないか。ヤクザと未成年ってだけで、もうヤバ過ぎだ。お前は自分のツラを見たことがないのか? 大体どうして、お前とその子が一緒にいるんだ? 本当に何かやったんじゃないだろうな?」
「はぁ? なんだそりゃ!? オレは、こいつが輩に絡まれていたのを助けたんだぞ! 」
その言葉を受け、聖はユウを振り返った。
「本当か? 」
コクリと、ユウは頷く。
ユウのギターを割った犯人たちは、この騒動で尻に火が付いたように逃げ去っていて、もうとっくにいない。路上には、無残に壊されたギターだけが残されていた。
ユウは無言のまま、そのギターを拾い上げる。
せっかく、勇気を出して歌おうとしていたのに。
大切なギターは壊され、心無い人々の無情に晒され、ユウの心は冷え切っていた。
――――そして静かに、彼は怒っていた。
「……オレは、徒党を組んでバカみたいに騒ぐ輩は昔から嫌いです」
(ユウ? )
名前を呼びたいが、それをどうにか堪えて、聖はそっとユウの肩へ手を伸ばす。
「――さ、さぁ、怖い思いをしたな。こんな場所、早く離れよう」
「……」
「どうした? ギターを壊されたのか――大丈夫、新しいのを買ってやるから」
優しい声で、聖は言う。
「何でも好きなのを買ってやるから、一緒に行こう? 」
だが、その言葉は、ユウには届かなかった。
「あなたは、ロクに事情を知りもしないで一方的にその人を蹴った。周りが無視する中、その人だけがオレを助けてくれたのに。オレは、騒いでばかりのヤツらも嫌いだけど、一方的に暴力を振るうヤツも嫌いです」
あの状況では、頭に血の上った聖が勘違いするのは仕方ないと思うが、怒りに震えているユウは、とにかく誰かにその怒りをぶつけたかった。
それが例え、理不尽な事でも。
「オレは、あなたが嫌いです」
「ユ――」
「……あなたが、オレにとって……どういう人なのかは大体分かりますが、何一つ自分ではしなかったクセに、東京に来た途端、一方的にオレに構おうとするのは気味が悪いです」
ユウの言葉を受け、聖は静かに首を振った。
そうじゃない、そうじゃないんだっ!
どんなに、親子一緒に暮らしたかったことか。
自分の未来も全て犠牲にして、それを実現させる為にどれだけ耐えたか――
「……なんスか? このガキ、御堂の知り合いっすか? 」
取り囲んでいた一人がポツリと言うのに、聖が何か答える前に、ユウが口を開いた。
「お誘いは嬉しいですが、ジュピタープロダクションには入りません。失礼します」
「――」
「お心遣いありがとうございました」
そう言い捨てると、ユウは壊れたギターを抱えて立ち去って行った。
(ユウ――! )
聖は、凍り付いたように立ち尽くしていた。
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