ナラズモノ

亜衣藍

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「事務所に所属するには、まずは週二回レッスンを受けてください。それから、事務所の登録料が必要となります。こちらに詳細が書いてありますので、よく確認してください」

「……はぁ」

 差し出された紙を手にして、ユウは質問をする。

「あの、オーディションとかはないんですか? 」

「ウチは、そういうのはやっていません。それより、あなた未成年ですよね? 保護者の同意書も必要になりますから、こっちの申込書にも記入してもらってください」

「保護者は、いません。オレは一人です」

「そういった事は、こちらでは関与しません。とにかく同意書を添付してください」

 そう邪険にあしらわれ、ユウは門前払いを食らってしまった。

 表には【いつでも君を待っている! 見学歓迎! 】という看板がデカデカと掲げられているが、やはりどこも内実は違うようだ。

 ユウは溜め息をつきながら、次の芸能事務所を探すかどうか考える。

 東京には、色々な芸能社があるのは確かだ。

 どこも「未経験者歓迎! 受講生募集中! 」とあるが、結局はカネ次第だ。

 オーディションで合否を決め、レッスン含め衣食住まで面倒を見てくれるような芸能事務所など無いらしい。

 それに、ユウには困った事情が付いて回っている。

 先ほども言われた。

 保護者・・・はどうしたと。

 この日本では、義務教育は中学までだ。そして、児童手当などの国からの補助も、中学を出た所で切られる。もしも、その世帯が国から生活保護を受けていた場合も、高校の学費は一切出ない。

(※2004年からは支給されるようになったが、2000年のこの当時は支給されなかったのだ)

 つまり、中学を卒業したら貧乏人はさっさと働けという事だ。

 国からの補助は打ち切られる。

 高校からは、高い学費を払わねば入れないようになっている。

 だが、どこかに就職する場合は、殆どが高卒・・・を条件にしている。

 何とも矛盾した話である。

 しかも国は、補助を打ち切った若者未成年に対し、中卒で労働に就くことを要求しているくせに、いざその若者が何かをしようとすると、保護者の同意が必要だという。

 この国は、バカバカしいくらいに矛盾だらけだ。

「仕方がない。やっぱり、路上ライブか――それかライブハウスを見て、仲間を探すしかないか……」

 しかし仲間といっても、ユウは、バンドを組むのにはいまいち気乗りがしない。

 自分の好きなように、自由に歌っていたいのだ。

 誰かがそこに混じれば、いい方向に連鎖してミックスアップするかもしれないが、逆にダメになる可能性もある。

 ユウは、歌に対しては妥協したくない。

 きっと遠慮もなく、ズカズカとモノを言うだろう。

 ケンカは――出来ればしたくない。

 第一、他人の顔色を窺ってビクビクするんて、そんなのもう二度とごめんだ。

 東京に来て、早一ヵ月が経った。

 カネはまだあるが、じりじりと減っている。

――当たり前だ。

 仕事はしていないのだから。

 考えながらアテもなく歩いていると、不意にどこからか音楽が聞こえてきた。

 音のする方を見遣ると、大学生くらいの二人組が、高架下の少し開けた場所で歌っているのが分かった。ギャラリーも数人いて、結構楽しそうだ。

 演奏している足元の、開いて置いたギターケースへと、その内のギャラリー何人かがコインを入れている。

 うん、これなら客の反応が分かりやすいし、そのコインが、歌に払われる対価なら納得できる。

 幸い、ユウもギターを持って歩いていたところだ。


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