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(なにを考えているんだ! オレは、あの人を尊敬しているんだ。そんな――そんな対象に見ちゃあ絶対にダメだ!! )
だが、どうにも収まらない。
もうすぐ聖が戻って来るのに?
コレはどうすればいいんだ!?
動揺して、泳ぐ視線の先に、事務所のグラビアでサンプリング用に撮った写真の束が、無造作にテーブルへ置いてあるのが目に入った。
聖の足音が近付いてくるのを耳にして、真壁は慌ててその写真を引っ掴む。
――――ガチャ。
「待たせたな。じゃあ、行こう……」
言葉は、止まる。
ドアを開けた先には、真っ赤な顔のまま、女の際どい水着写真を手にして前屈みになっている真壁がいた。
それを見て、少しの沈黙の後に、聖は口を開く。
「……とりあえず、トイレを貸してやるよ。ドアを出て右の突き当りだ」
「あ、ありがとうございます」
そそくさと、真っ赤な顔のままリビングを出て行こうとする真壁を見遣りながら、聖は笑った。
「お前も、まだまだ若いな。十九だもんなー」
どうやら上手いこと納得してくれたらしい。
ホッとしながら、真壁はトイレに駆け込んだ。
◇
目を覚ませ、御堂聖! お前は何の為に生きているんだ!?
ユウはまだ十五の子供だ。
何とか居場所を見つけ出して、早く保護してやらなきゃダメじゃないか。
――――オレが嫌いなら、それでもいい。
とにかく、ユウの身柄を確保しなければ。
東京など、夢を見る若者が簡単に地獄へと足を踏み外す場所だ。
そこら中に、幾らでも悪意が蠢いており、気を付けなければ直ぐに足元を掬われる。
聖は冷水シャワーを浴びて、完全に気持ちを切り替えていた。
まずは、他の芸能関係に目を光らせるか、それともライブハウスに人をやるか。
しかし、こうして気合を入れてみたところで、悲しいことに……聖は、ユウの今の顔を知らない。
持っているのは、ユウが七つの時に病院で撮った、子供の頃の写真一枚だけだ。
「……真壁」
「はい? 」
「以前用意させた携帯電話は、最新機種で間違いないな? 」
「ええ。J-PHONEのカメラ付き携帯電話です。最新ですよ!御堂さんのも、言われた通り同じ物に機種変更しました」
(*J-PHONEは現在のソフトバンクモバイルです。この年にカメラ付き携帯電話が発売され、爆発的に広まりました)
「アドレスは? 」
「こちらで決めた番号を登録しました。向こうでイジってなければ繋がるはずです」
「そうか」
それを聞き、聖はメールを送った。
【会いたくなければ無理に会わなくていい。お前が会おうと思ったタイミングで構わないから、いつでも連絡をしてくれ。でも、せめて顔だけでも見せてくれないか? この携帯電話は写真が撮れるんだ。お前の写真を送ってほしい。お前の顔が見たい】
もっと言いたい事は山ほどある。
しかし、これでも結構な長文メールだ。
あまり長いと、更に嫌われてしまうかもしれない。
ユウに、嫌われる――――目の前が暗くなり、車のシートにぐったりと凭れ掛かる。
「どうしました、社長? 」
車の運転をしていた真壁は、聖の気配に敏感に反応した。
「何か、ご気分でも……」
「いや、大丈夫だ」
そう、大丈夫。
まだ、本人の口から直接嫌いだと言われたワケではない。
聖は、不安になる己の心をどうにか宥めながら、神に祈る気持ちでメールを送った。
彼はそれまで、神など一度も信じたことはないけれど、この時ばかりは心からそれを願ったのであった。
だが、どうにも収まらない。
もうすぐ聖が戻って来るのに?
コレはどうすればいいんだ!?
動揺して、泳ぐ視線の先に、事務所のグラビアでサンプリング用に撮った写真の束が、無造作にテーブルへ置いてあるのが目に入った。
聖の足音が近付いてくるのを耳にして、真壁は慌ててその写真を引っ掴む。
――――ガチャ。
「待たせたな。じゃあ、行こう……」
言葉は、止まる。
ドアを開けた先には、真っ赤な顔のまま、女の際どい水着写真を手にして前屈みになっている真壁がいた。
それを見て、少しの沈黙の後に、聖は口を開く。
「……とりあえず、トイレを貸してやるよ。ドアを出て右の突き当りだ」
「あ、ありがとうございます」
そそくさと、真っ赤な顔のままリビングを出て行こうとする真壁を見遣りながら、聖は笑った。
「お前も、まだまだ若いな。十九だもんなー」
どうやら上手いこと納得してくれたらしい。
ホッとしながら、真壁はトイレに駆け込んだ。
◇
目を覚ませ、御堂聖! お前は何の為に生きているんだ!?
ユウはまだ十五の子供だ。
何とか居場所を見つけ出して、早く保護してやらなきゃダメじゃないか。
――――オレが嫌いなら、それでもいい。
とにかく、ユウの身柄を確保しなければ。
東京など、夢を見る若者が簡単に地獄へと足を踏み外す場所だ。
そこら中に、幾らでも悪意が蠢いており、気を付けなければ直ぐに足元を掬われる。
聖は冷水シャワーを浴びて、完全に気持ちを切り替えていた。
まずは、他の芸能関係に目を光らせるか、それともライブハウスに人をやるか。
しかし、こうして気合を入れてみたところで、悲しいことに……聖は、ユウの今の顔を知らない。
持っているのは、ユウが七つの時に病院で撮った、子供の頃の写真一枚だけだ。
「……真壁」
「はい? 」
「以前用意させた携帯電話は、最新機種で間違いないな? 」
「ええ。J-PHONEのカメラ付き携帯電話です。最新ですよ!御堂さんのも、言われた通り同じ物に機種変更しました」
(*J-PHONEは現在のソフトバンクモバイルです。この年にカメラ付き携帯電話が発売され、爆発的に広まりました)
「アドレスは? 」
「こちらで決めた番号を登録しました。向こうでイジってなければ繋がるはずです」
「そうか」
それを聞き、聖はメールを送った。
【会いたくなければ無理に会わなくていい。お前が会おうと思ったタイミングで構わないから、いつでも連絡をしてくれ。でも、せめて顔だけでも見せてくれないか? この携帯電話は写真が撮れるんだ。お前の写真を送ってほしい。お前の顔が見たい】
もっと言いたい事は山ほどある。
しかし、これでも結構な長文メールだ。
あまり長いと、更に嫌われてしまうかもしれない。
ユウに、嫌われる――――目の前が暗くなり、車のシートにぐったりと凭れ掛かる。
「どうしました、社長? 」
車の運転をしていた真壁は、聖の気配に敏感に反応した。
「何か、ご気分でも……」
「いや、大丈夫だ」
そう、大丈夫。
まだ、本人の口から直接嫌いだと言われたワケではない。
聖は、不安になる己の心をどうにか宥めながら、神に祈る気持ちでメールを送った。
彼はそれまで、神など一度も信じたことはないけれど、この時ばかりは心からそれを願ったのであった。
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