ナラズモノ

亜衣藍

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 聖が、この業界に係わるようになって分かった事は、考えていたほどここはクリーンな業界ではなかったという現実だった。

 この業界――それは、極道の事ではない。

 つまり、現在彼が手掛けている芸能界の話だ。

 色、欲、カネが廻っている、ここは想像を超えた狂乱の世界だった。

 裏社会が係わるのもさりあらんと言わんばかりの、どぎつい虚構に満ちた夢の世界であったのだ。

 まず、色だ。

 昔から枕営業があるとは聞いていたが、思った以上にそれはお盛んだった。

 仕事を得るための金銭の授受の方が余程分かりやすいのだが、こと色事に関しては何とも巧妙にやり取りされている。

 たとえば、ディレクターがある若いアイドルやタレントへ狙いを定めたとしよう。

 だが、そのディレクターは決して自分からは誘わない。露骨にアプローチをすると、後々足を取られる可能性があるからだ。

 故に、仕事の話を持ち掛けるついでに暗にマネージャーへ匂わせたり、雰囲気で『分るよな? 』とプレッシャーを本人にも巧妙に掛けてくる。

 それを受け、事務所側は今後の方針を出すのだ。

 タレントやアイドルは、その事務所の出した方針に従えばそれでよし。

 逆らえば、次の更新はない。

 新しいタレントは次々と業界へ飛び込んでくるのだから、わざわざ手間暇かけて、使い物になるのかどうか分からないような卵は育てない。

 シンデレラストーリーが通用するタレントなど、ほぼ0に近いのだ。

 長い目で人を育てるような、そんな悠長な真似などしない。

 この世界は、どんなことでも踏み台にして伸し上がるという、そんな気概のあるような、とにかく野望を絶えず抱く欲深い者だけが生き残るよう巧みに出来ている。

 そして、もちろんカネだ。

 カネは、力だ。

 それ次第で、どんな仕事も真っ先に指名してもらえる。

 聖はかなりのカネを投下して、ビジュー・コスメというアメリカの化粧品メーカーと契約まで取り付けた。

 八月からは、ジュピタープロ推し出しの女優、有賀沙也加を起用したCMが、バンバン流れるだろう。

 この有賀沙也加という女優、世間では清楚なお嬢様と思われており、実際世間では「お嫁さんにしたい女優」でナンバー3に選ばれた女であるが、中身は相当なタマだった。

「あたし、売れなくなったらAVでガッツリ稼ぐから、それまでせいぜいお嬢様キャラで推し出してちょうだいよ」

 過去は、地方の風俗で荒稼ぎして、整形ついでに芸能界デビューしようとジュピタープロへ乗り込んできた女だった。

 だが、こんな女を、意外と聖は気に入った。

「オレは、お前みたいにタフな女は嫌いじゃないぜ」


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