17 / 98
2
2-2
しおりを挟む
――そんなのウソに決まっている!
散々な目に遭い、人間不信に陥っているリリスはそう思ったが、アッシュだけは未だにリリスの許に留まっていてくれている現実を思い出して、リリスはフッと肩の息を抜いた。
(そうね。誰も彼も、表と裏で言う事が違うんだと思い知ったけど、アッシュだけはずっとウソなんてついてなかったわね)
だから、リリスの事を『豚姫』だと言った事はないという、アッシュの言葉は本当なんだろう。
ここに到着した時とは、別人のようにやつれた顔に柔らかい微笑みを浮かべながら、リリスはアッシュを見遣った。
「ありがとう、アッシュ。私の身体の事を心配してくれて」
「お嬢さん、だったら――」
しかし、袋から差し出された串焼きには、やはりリリスは首を振った。
「……後一日なのよ。明日、私の呼び出しに応えて悪魔が降臨するのよ」
「また『悪魔』かよ! なんのカルト宗教だか知らねぇけど、その所為で余計にここの連中がお嬢さんに寄り付かないんだぜ? 皆気味悪がってさ!」
アッシュの苦言に、リリスは「それは悪かったわね」と返す。
「悪魔という言い方が悪いなら変えるわ。そうね……精霊といえば良いかしら?」
「精霊も悪魔も変わんねぇよ。なぁ、もう変な意地張るの止めなって。ここの男爵領には、オレの兄弟分がいるんだ。そこを頼って、こんな屋敷からは逃げ出そうぜ」
この九百九十九日の間に、男爵家には待望の男子が産まれた。
その子はリリスの持つクラシスを名乗り、「クラシス・ウル伯爵」として、六歳になったら王宮に上がり王子の傍仕えになる事が決まっているという。
ウルは分家の意味になるが、尊い伯爵家の名を名乗れることは、これから先の出世に大いにプラスになるだろう。
母親は書類上リリスという事になるのが、何とも皮肉な話だが。
(未だに処女の私が、母親とはね)
だが当然、その『息子』は、見た事も会ったこともない。
これから先も、夫の筈の男爵にさえ会う事はないだろう。
――――言いたい事がいっぱいある。
呪いの言葉も罵倒も思う存分叩き付けてやりたい。
散々な目に遭い、人間不信に陥っているリリスはそう思ったが、アッシュだけは未だにリリスの許に留まっていてくれている現実を思い出して、リリスはフッと肩の息を抜いた。
(そうね。誰も彼も、表と裏で言う事が違うんだと思い知ったけど、アッシュだけはずっとウソなんてついてなかったわね)
だから、リリスの事を『豚姫』だと言った事はないという、アッシュの言葉は本当なんだろう。
ここに到着した時とは、別人のようにやつれた顔に柔らかい微笑みを浮かべながら、リリスはアッシュを見遣った。
「ありがとう、アッシュ。私の身体の事を心配してくれて」
「お嬢さん、だったら――」
しかし、袋から差し出された串焼きには、やはりリリスは首を振った。
「……後一日なのよ。明日、私の呼び出しに応えて悪魔が降臨するのよ」
「また『悪魔』かよ! なんのカルト宗教だか知らねぇけど、その所為で余計にここの連中がお嬢さんに寄り付かないんだぜ? 皆気味悪がってさ!」
アッシュの苦言に、リリスは「それは悪かったわね」と返す。
「悪魔という言い方が悪いなら変えるわ。そうね……精霊といえば良いかしら?」
「精霊も悪魔も変わんねぇよ。なぁ、もう変な意地張るの止めなって。ここの男爵領には、オレの兄弟分がいるんだ。そこを頼って、こんな屋敷からは逃げ出そうぜ」
この九百九十九日の間に、男爵家には待望の男子が産まれた。
その子はリリスの持つクラシスを名乗り、「クラシス・ウル伯爵」として、六歳になったら王宮に上がり王子の傍仕えになる事が決まっているという。
ウルは分家の意味になるが、尊い伯爵家の名を名乗れることは、これから先の出世に大いにプラスになるだろう。
母親は書類上リリスという事になるのが、何とも皮肉な話だが。
(未だに処女の私が、母親とはね)
だが当然、その『息子』は、見た事も会ったこともない。
これから先も、夫の筈の男爵にさえ会う事はないだろう。
――――言いたい事がいっぱいある。
呪いの言葉も罵倒も思う存分叩き付けてやりたい。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。
ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」
幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。
──どころか。
「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」
決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。
この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる