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後日談
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「青菱様、こちらへどうぞ」
舎弟の後を引き継いだ黒服に案内され、通されたのは特別室だ。
この船で一番豪奢な部屋であるが、どんな有名人も富豪も、王族でさえこの船室を使ったことは無い。
ここに泊れるのは、一人だけだ。
史郎はこの部屋を、オーナー権限で常にキープしていた。
それもこれも、全ては、恋人と逢瀬を楽しむためだった。
「――それでは、失礼いたします。御用の際は、何なりとお申し付けください」
部屋の前で一礼すると、黒服は去って行った。
隅々まで躾が行き届いているので、聞き耳を立てて様子を窺うような無粋な真似など、この船のスタッフは誰もしない。
ここは完全なる、史郎のプライベート空間だ。
ガチャリと扉を開くと、広いリビングルームの中央で、北欧製の豪華なソファーへ身を横たえている聖がいた。
無造作に髪を下ろし、着古したような革ジャンにスキニーデニムパンツという出で立ちは、この豪華船舶には不釣り合いだが――――妙な色気を感じる。
客が連れ込んだペットのジゴロか、一晩の相手として買われた男娼か。
そんな錯覚を起こしそうで、その妄想が理不尽だと知りながらも妬きそうだ。
「……お前の方からオレに会いに来てくれるとは、嬉しいぜ」
そう嘯きながら、史郎はソファーへと近寄る。
「待っている間に、服なんか脱いじまえばよかったのに」
隣に座り、手を伸ばしてその肩を抱く。
三週間前に抱いたばかりだが、細くなったその感触に、史郎は眉根を寄せた。
「どうした、ずいぶん痩せたな?」
「――――あんただろう?」
「何がだ」
「サツにチクった」
「……さぁ、何の事だか」
「とぼけるな」
低い声で言うと、聖は上目遣いに史郎を睨んだ。
舎弟の後を引き継いだ黒服に案内され、通されたのは特別室だ。
この船で一番豪奢な部屋であるが、どんな有名人も富豪も、王族でさえこの船室を使ったことは無い。
ここに泊れるのは、一人だけだ。
史郎はこの部屋を、オーナー権限で常にキープしていた。
それもこれも、全ては、恋人と逢瀬を楽しむためだった。
「――それでは、失礼いたします。御用の際は、何なりとお申し付けください」
部屋の前で一礼すると、黒服は去って行った。
隅々まで躾が行き届いているので、聞き耳を立てて様子を窺うような無粋な真似など、この船のスタッフは誰もしない。
ここは完全なる、史郎のプライベート空間だ。
ガチャリと扉を開くと、広いリビングルームの中央で、北欧製の豪華なソファーへ身を横たえている聖がいた。
無造作に髪を下ろし、着古したような革ジャンにスキニーデニムパンツという出で立ちは、この豪華船舶には不釣り合いだが――――妙な色気を感じる。
客が連れ込んだペットのジゴロか、一晩の相手として買われた男娼か。
そんな錯覚を起こしそうで、その妄想が理不尽だと知りながらも妬きそうだ。
「……お前の方からオレに会いに来てくれるとは、嬉しいぜ」
そう嘯きながら、史郎はソファーへと近寄る。
「待っている間に、服なんか脱いじまえばよかったのに」
隣に座り、手を伸ばしてその肩を抱く。
三週間前に抱いたばかりだが、細くなったその感触に、史郎は眉根を寄せた。
「どうした、ずいぶん痩せたな?」
「――――あんただろう?」
「何がだ」
「サツにチクった」
「……さぁ、何の事だか」
「とぼけるな」
低い声で言うと、聖は上目遣いに史郎を睨んだ。
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