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後日談
愛と罠
しおりを挟む「いらっしゃいませ」
いつものバーを訪れたところ、見知った顔がいた。
その男の名は、御堂聖。
普段はきっちりと髪をセットして、フルオーダーのスーツを纏い、美しく冷徹な社長然としているが。
今は無造作に髪を下ろし、着古したような革ジャンにスキニーデニムパンツという出で立ちだ。
その姿は、社長然としている常の姿とは、まったくの別人に見える。
――――いいや、昔のようで懐かしいというか。
「よう、最近よく合うな」
そう声を掛けたところ、相手は半分酔ったような顔でグラスを掲げて見せた。
「……そう言うあんたは、縄張りの見回りか?」
「いいや、さすがにもうこの歳で、そんな事はしねぇよ。家に帰る前に一杯飲みたくなっただけだ。この店のマスターの作る酒は、オレの好みに合っているからな」
碇はそう言うと、マスターへ「いつもの」と声を掛けた。
そうして、聖の隣のストールへ腰掛けるが。
「――隣に座って良いなんて、言ってねーぞ」
つれないセリフに、碇は腹を立てる事なく苦笑いを浮かべる。
長い付き合い故に、分っているが。
聖のこのセリフは『隣へ座ってもいいぞ』という意味だ。
だから碇が隣へ座ると、聖は特に異議を唱える事無く、ゴクリと酒を飲み干した。
「おいおい、随分酔っているようだな? いつから飲んでるんだ?」
碇が呆れてそう言うと、相手はフンっと鼻で笑った。
「そんな、酔ってねーよ」
「……本当かよ」
チラリとマスターを見遣ると、そこは流石はプロ。
この店のオーナーである碇へ、小賢しく告げ口する事も無く、緩やかに微笑んで『個人によって酔いの塩梅は違いますからね』と受け流す。
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