彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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最終章

最終章-12

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 聖に執着し、周囲の反対を押し切ってまで、聖を力づくで囲おうとしていた男。

 そう、あの青菱史郎だ。

 悋気の傾向が殊更強い青菱史郎にとっては、それは決して容認できるものではなかったのだ。

 聖が多生へ心を寄せるに従い、史郎には変化が起こっていた。
 史郎の中では最初の余裕は消え去り、多生に対する感情は次第に激しい嫉妬に変わり、同時に、聖に対しては歯止めが利かない妄執が湧いていた。

 肉食の獣が狂い、見境なく殺意を向けるその気配を察知し、多生は悩んだ。

 このままでは、やがて聖の身に危険が及ぶと……。

 それこそ、言いなりにならない聖の態度に史郎が発狂し、暴走の果てに聖がシャブ漬けにでもされたら悲劇だ。
 当時の史郎には、そういう狂気があった。

――――だから多生は、身を引く事にしたのだ。

 完全に未練を絶つために、多生はそのまま日本を去った。
 二度と戻るつもりは無かった。

 誰よりも華やかで美しく、曲がった所のない真っ直ぐな性格で、そして綺麗で純真な聖。
 何処に居ても、多生は聖の事を想っていた。
 その聖の為にも、このまま日本には帰らず、海外で骨を埋めようと思っていたが。

 しかし、自分の身体が病に侵され余命幾ばくもないと知った時、最後に願ったのは、あの綺麗な聖を一目見てみたいという欲だった。

 だから多生は、二度と戻るつもりは無かった筈の日本へ帰って来たのだ。

「ずっと、心配していたが……オレの取り越し苦労だったと知って、安心したよ」

 そう呟き、多生は微かに微笑む。

 日本へ戻り、現在の聖の状況を知り、多生は本当にホッと胸を撫で下ろした。
 悋気の塊りのようだったあの青菱史郎は、どうやら聖の意志を尊重して、現在では大人しく身を潜めているらしいと知り大変驚いたが。
 それ以上に驚いたのは、あの聖にミュージシャンの子供が居たということだった。
 カタギになって芸能事務所の社長業に就き、今はその子供と契約を結んで、業績も上々だという。

 驚きの連続だったが、とにかく聖が幸せで良かった――――そう、思った。
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