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最終章
最終章-10
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「……」
だが、真壁は言葉を失ったように、死んだようにベッドに横たわったままの笊川多生をジッと見下ろした。
この場所は、刑務所ではない。
――――終末期医療専門の病院であった。
「御堂には何と言って来たんだ?」
探偵の問い掛けに、真壁は動揺しながら答える。
「ひ、聖さんには何も言ってない。ただ、これから親戚の見舞いに行くから、今日は半休を頂きますとだけ伝えて出て来た」
「……本当に、気付かれてないか?」
「大丈夫だと思う。出掛けにネクタイが曲がっていると注意され、直されたくらいだ」
「そうか――」
そこで探偵は言葉を切ると、おもむろに切り出した。
「――――笊川が20年振りに戻って来た理由を、御堂は何だと思っていたんだ?」
探偵の質問に、真壁はハッとした様子で答える。
「こ、恋人を……咲夜という恋人を忘れるために、日本に戻るまでそれだけの時間が必要だったんだろうと――」
この真壁のセリフに、それまで眠っていたと思っていた多生が、擦れる声で答えた。
「……ちがう」
「え?」
驚いたような真壁に、多生はゆっくりと静かに告げる。
「オレは……自分が末期ガンだと分かったから、最後に故郷に帰って終わりを迎えようと思ったんだ」
逮捕はされたが、まだ多生は刑の確定していない容疑者という身分である。
この場合は、たんに犯罪の容疑者というだけで犯罪者ではないので、治療が優先される。ましてや、逃亡も証拠隠滅の恐れも無い重病患者では……。
(案の定、釈放か。嫌な方に勘が当たっちまったな)
苦虫を嚙み潰したような顔で、探偵はポケットからタバコを取り出した。
だが、真壁は言葉を失ったように、死んだようにベッドに横たわったままの笊川多生をジッと見下ろした。
この場所は、刑務所ではない。
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「ひ、聖さんには何も言ってない。ただ、これから親戚の見舞いに行くから、今日は半休を頂きますとだけ伝えて出て来た」
「……本当に、気付かれてないか?」
「大丈夫だと思う。出掛けにネクタイが曲がっていると注意され、直されたくらいだ」
「そうか――」
そこで探偵は言葉を切ると、おもむろに切り出した。
「――――笊川が20年振りに戻って来た理由を、御堂は何だと思っていたんだ?」
探偵の質問に、真壁はハッとした様子で答える。
「こ、恋人を……咲夜という恋人を忘れるために、日本に戻るまでそれだけの時間が必要だったんだろうと――」
この真壁のセリフに、それまで眠っていたと思っていた多生が、擦れる声で答えた。
「……ちがう」
「え?」
驚いたような真壁に、多生はゆっくりと静かに告げる。
「オレは……自分が末期ガンだと分かったから、最後に故郷に帰って終わりを迎えようと思ったんだ」
逮捕はされたが、まだ多生は刑の確定していない容疑者という身分である。
この場合は、たんに犯罪の容疑者というだけで犯罪者ではないので、治療が優先される。ましてや、逃亡も証拠隠滅の恐れも無い重病患者では……。
(案の定、釈放か。嫌な方に勘が当たっちまったな)
苦虫を嚙み潰したような顔で、探偵はポケットからタバコを取り出した。
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