彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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最終章

最終章-8

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「なに?」

「彼は、オレに連絡して密かに笊川多生を逃がそうとしたんだ。だが、残念ながら警察に先を越されちまったがね」

「……」

「おっと、本当に今回は知らないよ。警察だって捜査を進めていたんだから、いずれはこのマンションに辿り着くのは時間の問題だった筈だ」

 援護射撃するように、助手も口を開く。

「そうですよ。なのに、こっちも結構なリスクがあることを承知しながら、ここまで来たんだから。結局、笊川多生を保護する事は叶いませんでしたが、我々が努力したのは認めて欲しいです」

「そうか……」

 聖は一言そう呟くと、綾瀬へ向かってスッと手を差し出した。

「一本くれ」
「どうぞ」

 聖は箱から一本抜くと、ゆっくりと口に咥えた。
 そうして手渡されたライターで火を点すと、煙草の煙を静かに燻らせる。

 探偵と助手は何かを感じ取ると、無言のままボロボロのプジョーへ戻った。

 聖は車に戻らず、しばらくその場に留まりながら、数週間だけ過ごした多生との日々を脳裏へ思い描く。

 甘い夢のような、でもいずれは終わりが来ることを予感しながら送った、毎日を。


「初恋は、実らねぇっていうのは本当だな……」


 その頬を、一筋の涙が静かに流れた。

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