彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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 その事を思い知り、正直な気持ちとしては……自分でも思っていた以上に、ショックだった。

(まったく……度を越した馬鹿者だな、オレは)

 この歳になってもまだ、綺麗だの美しいだのと言われ続けていたので、いつの間にかすっかり自分でもその気になっていたらしい。


 多生の心の中の、若く美しいままの咲夜にも勝っているのではないかと。
 このまま聖だけを見つめて、聖を愛するようになってくれるのではないかと。


――――だが、そんなワケがなかった。


 多生は復讐を遂げるために、綿密に計画を立てて聖へ近付いたのだ。
 現状、一番『関川』に近いのは聖だ。

 自分多生に、未だ聖が惚れている事を確かめてから、巧みに聖を利用してターゲットを誘き寄せる。
 これ程、理にかなった策謀は無いだろう。

(そうだと知っても、やはりオレなら裏切る事はしないだろうと、そう見極めたのかい? ターさん……)

 悔しいし、悲しいが、多生の読みは当たっている。
 聖はこんな目に遭いながらも、やはり多生の為に最大限の力を貸したいと今でも思っていた。

「ツイン・ロードに連絡したか、真壁」

 振り返ると、顔を真っ赤にした真壁がギクシャクと頷いた。

「――しました。ですが、どうか考え直してください。笊川は既に一人殺している。おそらくヤツは、姿を現した関川も殺害するつもりです。そんな事に協力するなんて、オレは反対です!」

 そこで聖は無言になると、あること・・・・に気付き、ポケットからスマホを取り出した。
 多生を全く疑っていなかったので、彼の前でも何度か仕事用のスマホを操作していた。
 その際、パスワードも見られていたかもしれない。
 このスマホには、指紋認証や顔認証は入れていない。

 で、あれば。
 もしかして――

「……」
「聖さん?」

「どうやらあの人、これスマホに密かに位置情報を確認するGPSアプリを入れていたようだ。関川と接触するタイミングを逃さないように、オレの位置を追っているようだな」

 フッと笑い、聖は寂しく呟く。

「オレのマンションで、ゆっくり寛いで居てくれるかと思っていたが――どうやらオレは監視対象の囮でしかなかったようだ」

「何だって?――――ここまでコケにされて、どうして笑っていられるんですか!!」

 激高する真壁に、聖は言う。


「仕方がない。オレが、一方的にあの人に惚れているんだから」


「っ!」

 言葉を失う真壁だ。
 だが、何事か覚悟を決めたか、真壁は白くなるまでギュッと拳を握り締めた。
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