彼が恋した華の名は：４

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「あの人は、寂しくて悲しい人なんだ。何処に行っても異邦人で、誰もあの人を受け入れてはくれなかった。なら、せめてオレだけは……」

　か細い声で呟く聖に、真壁は怒ったように言う。

「いい加減にしてください！」
「っ!?」

「あなたは、あいつに利用されているんですよ？　どうしてそれが分からないんですか!?
あなたは本当に心根の優しい人だ。男の弱っている場面を見せられては、ついつい本能的に手を貸してしまう。どうせ『もうダメだ』とか『今までありがとう』とか未練有り気な事を笊川が言い出したもんだから、助けてやろうって思ってしまったんでしょう？」

　さすがに、真壁は付き合いが長いだけに鋭い事を言う。
　確かにその通りだ。
　全く同じような事を、多生は口にした。

　そうして寂しそうにしながら、聖の前から去って行こうとしたので、行かないでくれと引き留めてしまった……。

「本当に聖さんの事を思っているなら、余計な愁嘆場など演じずに無言のままひっそりと消える筈です。……オレなら、そうする！」

「真壁……」

「でも、笊川がそうしなかったのは、最初から聖さんを利用するつもりだったからです。聖さんなら、必ず自分を引き留める・・・・・だろうと確信していたからっ」

　断言する真壁を前にして、聖はしばらく無言だったが。

「――そうかも、それないな」
　そう、聖は寂しく笑って答えた。
　それを聞き、ようやく分かってくれたかと顔が明るくなった真壁であったが、次の瞬間奈落へ落とされた。

「それでもオレは、あの人を助けてやりたいんだ。自分の為にも」
「聖さん……」

　呆然とする真壁を見遣り、聖は次に別の事を口にした。

「探偵から、ツイン・ロードの報告書は？」
「あ――あぁ、これですが……」

　慌てて鞄から取り出した報告書へ素早く目を通すと、聖の瞳に攻撃的な光が瞬いた。