彼が恋した華の名は：４

7

7-7

「それで途方に暮れて、holyのところへ来たんだ」
「……成程な」

　偶然の出会いではないだろうと予想していたが、やはりそうだったか。
　運命とか奇跡とか、そういったドラマチックな展開も少しだけ期待したが。

（まったく、この歳になってもまだそんなガキみてぇな甘い夢を見るとは）

――――幾つになっても、成長しねぇな。

　聖は自嘲気に笑うと、静かに多生へ近寄り、その両肩へ手を置いた。

「あんたには、恩がある。手を貸してやるよ」
「本当か？」
「ああ。ようするに、誰にも知られないよう密かに、関川を人気のない場所へ連れ出せばいいんだろう？」

　青菱史郎を通せば話は早いが、それでは多生の望むような復讐は出来ない。
　関川が金蔓になると知れれば、逆に囲い込もうとするだろう。
　そうなったらもう、多生の復讐の手は届かなくなる。

「あんたは引き続き、このマンションに隠れていてくれ。いいか？」

　念を押すと、多生は「すまない」と呟いた。
　そうして、謝罪か感謝か分からないが……聖の身体を引き寄せて、ギュッと抱き締めてきた。

「holy、オレが頼れるのはお前しかいない」
「ターさん……」

“傾国の美女”とまで言われたこの身としては情けないかもしれないが、こんな事だけでも聖は嬉しかった。

　今まで多生には、恋人のように抱き締められたことはついぞ無かったから。

（参ったな……やはり『初恋』は、特別らしい）

　聖は内心で苦笑しながら、大きな多生の背中へと両手を回した。