彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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「……」

「たまたま、本当に今回は運が悪かっただけだって。だから――」

 これまで、誰かを元気づけようと気を遣って話しかけた事が殆ど無かったので、どうも上手いセリフが出てこない。
 聖は必死になって、何か良い言葉は無いものかと考えるが。
 しかしその言葉が出る前に、多生が口を開いた。

「……フッそうだな、holyはオレの事を好いてくれていたな」

 そこで一度言葉を切ると、次に、トーンを下げて続ける。

「関川は狡猾な男だ。オレなりに金とツテを遣って新たに調べてみたが、ヤツはどうやらヤクザは儲からない時代になったと言ってこれまでのやり方に見切りをつけ、別の方法で表社会・・・で伸し上がる策略を練っているらしいと分かった」

 意外な話に、聖は眉をひそめる。

「何だと? 青菱からは、そんな話は――」
には言わないさ。この事が知られたら、組に収める上納金をたっぷり上乗せされるからな」

 確かに、そうなるだろう。
 だがその代わりに、何か事が起これば、上層部が裏から手を回して揉め事を手打ち解決にしてくれるようになっている訳だが。

 しかし関川は、その手順を無視して暗躍しているという。

「関川は手頃な人物に狙いを定め、そいつを自分の傀儡に仕立て上げては巧みに操り、次々と会社を乗っ取っているらしい。コマにした奴等をとことん遣い潰してな。しかし、その強引過ぎるやり方の所為で、あちこちから恨みを買っているようだ。本人もその自覚があるようで、滅多に表に出てこない。オレなりに目星をつけた場所で数か月張ってみたが、未だに姿を捕らえることが出来ていない」

「……」

「しくじって、ヤツの手下の方を殺しっちまった件もマズい事になっている。オレにはもう、時間が無い」

(時間が無い?)

 そのセリフに焦燥したものを感じ取り、ごくりと喉を鳴らす聖に向き直ると、多生は哀しく微笑んだ。
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