彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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 恋した相手を、むざむざ目の前で失うなど嫌だ。

(なら、オレがここでそれを止めないと)

 聖の中には、焦りが生まれていた。

 いつものクレバーな聖ならば、もっと多生の言動を深読み・・・して行動する所であろうが……恋に惑わされていたが故に、その深謀遠慮も忘れて縋っていた。

「頼むから行かないでくれ、ターさん」

 引き留める聖を、多生は肩越しに振り返った。

「……本当に、協力してくれるのか?」
「あんた、オレを利用したいんだろう? いったい何をやらせようとしていたのか、まずはそれを教えてくれ」

 すると多生は、再び背を向けてボソリと喋った。

「半年前、オレは本当に久しぶりに日本に帰国した。……そして咲夜の末路を知り……それが関川の仕業だと知った。ヤツのねぐらを突き止めて復讐を決行したが、情報ではグッチの腕時計が関川の筈だったが――――結果はご覧の通りだ」

 女衒をしていた多生に、昔の知り合いが皆親切とは限らない。
 からかい半分に、ガセネタを掴まされたのだろう。

 だが、多生はその情報を信じて関川斎藤を拉致し、大量の飲酒を強要してフラフラになった状態で車道へと放り出したが。

 まさか、その相手が別人だったとは。

 多生は眉間にしわを寄せると、苦く笑った。

「昔の組仲間に騙されたんだ。オレは嫌われ者だったからな――」
「ターさん……」

 何処に行っても異邦人だった多生は、結局何処にも受け入れてもらえなかったようだ。

 聖は天黄正弘の元で、天黄組の仲間に囲まれて大家族のように過ごしたので、そういった点では孤独を感じた事は無かったが。
 仲間の筈の連中にも受け入れてもらえなかった多生の心情を考えると、掛けるべき言葉が見付からない。

「……オレは、あんたのことは嫌ってないよ」

 出てきた言葉は、我ながらなんとも陳腐なセリフだった。

「仲間に騙されたからって、いつまでも落ち込むなって。切り替えも必要だ」
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