彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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6 Incident

6-7

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 今すぐにでもマンションへ行って懇願したい気持ちがある。
 それと同じくらいに、もう多生の顔を見たくないという気持ちもあった。

 多生は、亡くなった咲夜にだけ囚われ続けている。あの綺麗な深緑の瞳には、決して自分は映らない。

 そう思い知っただけに、今はまだ会うのは辛かった。

(……フゥ)

 無意識に溜め息をついたら、前方の人物が反応を示した。

「おや、なんだか憂い顔ですね。どうかしましたか?」
「――いや、何でもないです。それより、二階堂さんはずいぶんとお若いんですね」

 気を取り直し、聖は表情を改める。
 聖の対面には、ゲーム会社ツイン・ロードの取締役である、二階堂翔太が座っていた。

 事務所で開催された選考オーディションの後、そのまま事務所で覚書を交わし、親交を深める意味でクラブへと移ったところであった。

 二階堂は、ジャケットとジーンズが良く似合う、まだ三十にもならない若い男であった。
 右隣に座っているスーツ姿の秘書と、左隣に座るフリースの役員も同じくらいに見える。

 しかしまぁ、仮にも他社を訪問する格好にしては、若さを理由にするには幼過ぎるが。

(これがZ世代ってヤツか)

 聖は微笑しながら、そっと口を開いた。

「御社では、代表取締役がいらっしゃるという事だったので、てっきり私と同じくらいの年齢の方かと思ってましたよ。でも、皆さん若々しくて驚いています」

 聖のセリフに、二階堂はハハッと笑った。

「ああ、今の会社は、大学の時に起業したんです。僕の両隣のスタッフも、その時の友人がそのまま付いて来た感じですね。僕みたいなクリエーター系は、学生起業多いですよ」
「そうでしたか……しかしそれなら、こんな雰囲気の店より、もっと若い人向けの方が良かったですね」

 この高級クラブは、聖のような人種であればピッタリだが、二階堂のような若造が来るには不釣り合いに見える。
 キャバクラのように、若いホステスが接客についてくれる方がリラックスするだろう。

(真壁、二軒目の予約を入れておいてくれ)
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