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6 Incident
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きっとそれは、咲夜の立場を慮っての行動だったのだろう。
多生さえいなくなれば、咲夜もさすがに諦めて、富沢組若頭の愛人に落ち着くだろうと思ったに違いない。
当時、女衒だった多生は、一応は東山事務所という組に籍を置いていたが、実際は今でいうところのフリーランスに近いポジションだった。
素人から玄人まで、見込みのありそうな人材をスカウトしては、それを磨き上げて発注のあった場所へと紹介する仕事だ。
口が上手くて優しくて男振りも良かった多生は、咲夜以外のオンナ達にもさぞやモテただろう。
きっと、こういったトラブルが起こった時は、奥の手として身を隠す事も何度かあったのではと推測する。
(そうやって一時的に身を隠せば、大概は皆忘れてくれたんだろうが……)
フゥ、と、聖は溜め息をついた。
結果から言えば、多生のその行動は更なる悲劇を招くことになったようだ。
咲夜は、多生を諦めなかったのだ。
咲夜は姿を消した多生を血眼になって追い求めて、義理もあった筈の若頭にも黙って、富沢組の手下やゴロツキ達へと多生を捜すよう命令した。
資金が足りなければ、組の金に手を付けてまで。
だがそんな事、いつまでも黙認されるわけがない。
愛人の勝手な行動は組織内で問題視され、組長から激しく叱責された若頭はその責任を取り、多額の上納金を組へ収めるのと一緒に指も詰める事となった。
咲夜は愛人の地位を失い、その身柄は関川へと払い下げになった――――。
(そんな事、海外に飛んでたら分かるワケが無いよな)
重苦しい気分になり、聖はまた溜め息をついた。
――――咲夜はそれから、数年は生きていたらしいが。
関川は、仲間内からも外道と言われる程の最悪な男だった。そんな男に払い下げられた咲夜には、安寧の日々など訪れる筈がない。
咲夜は地獄の底を彷徨うような目に遭い、美しかった身体は荒淫と麻薬で壊れていった。
多生さえいなくなれば、咲夜もさすがに諦めて、富沢組若頭の愛人に落ち着くだろうと思ったに違いない。
当時、女衒だった多生は、一応は東山事務所という組に籍を置いていたが、実際は今でいうところのフリーランスに近いポジションだった。
素人から玄人まで、見込みのありそうな人材をスカウトしては、それを磨き上げて発注のあった場所へと紹介する仕事だ。
口が上手くて優しくて男振りも良かった多生は、咲夜以外のオンナ達にもさぞやモテただろう。
きっと、こういったトラブルが起こった時は、奥の手として身を隠す事も何度かあったのではと推測する。
(そうやって一時的に身を隠せば、大概は皆忘れてくれたんだろうが……)
フゥ、と、聖は溜め息をついた。
結果から言えば、多生のその行動は更なる悲劇を招くことになったようだ。
咲夜は、多生を諦めなかったのだ。
咲夜は姿を消した多生を血眼になって追い求めて、義理もあった筈の若頭にも黙って、富沢組の手下やゴロツキ達へと多生を捜すよう命令した。
資金が足りなければ、組の金に手を付けてまで。
だがそんな事、いつまでも黙認されるわけがない。
愛人の勝手な行動は組織内で問題視され、組長から激しく叱責された若頭はその責任を取り、多額の上納金を組へ収めるのと一緒に指も詰める事となった。
咲夜は愛人の地位を失い、その身柄は関川へと払い下げになった――――。
(そんな事、海外に飛んでたら分かるワケが無いよな)
重苦しい気分になり、聖はまた溜め息をついた。
――――咲夜はそれから、数年は生きていたらしいが。
関川は、仲間内からも外道と言われる程の最悪な男だった。そんな男に払い下げられた咲夜には、安寧の日々など訪れる筈がない。
咲夜は地獄の底を彷徨うような目に遭い、美しかった身体は荒淫と麻薬で壊れていった。
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