彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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5 harsh reality

5-2

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「話を聞きたいと言ってきたくせに、早々に飲んだくれる気か?」
「……うるさい。今日はたまたま飲みたい日なんだ」

 聖はそう言うと、バーテンダーがテーブルへ新しいグラスを置く前に、さっと手を伸ばしてそれをキャッチした。
 またもや、そのまま手にしたグラスを唇へと傾けようとするのを、堪り兼ねたように史郎が制止する。

「いい加減にしておけ」
「邪魔すんな。オレの酒だ」

 意地になったかのようにムキになる聖に、史郎はピンと来たようだ。

「ははぁ」
「何だ?」
「お前、さては――――聞くのが怖くなったのか?」

 すると、やはりそれが図星だったのか、聖は急に大人しくなった。
 グラスに視線を落としながら、小さな声で呟く。

「……真実は知りたい、それは本当だ。でもきっと、知って楽しい話じゃないのはさすがに察している」

 もう少しだけ、そっとしておいてほしかった。
 多生が、このままずっとあのマンションに居てくれないだろうかと淡い期待をしていた。

 だが同時に、理由も何も知らないまま目を背けて過ごす事には、限界があることも知っていた。

 これは予感だ。

 いつの日か多生は、またふらりと何処かへ消えてしまうだろう。

 その時、原因も行き先も知らないまま、再び途方に暮れる羽目になるのは嫌だった。

「あの人の事を知りたいけど、知りたくない。こんな中途半端な気分になったのは、初めてだから迷ったが――」
「じゃあ、どうする?」

 史郎の問い掛けに少しだけ逡巡すると、聖は意を決したように口を開いた。

「教えてくれ。いったい、多生はどんなトラブルに巻き込まれているんだ」
「いいぜ、教えてやる。だが、この情報はタダ・・じゃないぞ――分かってるな?」

 流し目をくれる史郎に、聖は忌々しそうに舌打ちした。
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