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4 Euphoria
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そもそも、このコンペを主催した大手広告代理店の代表から既に誘いを受けているのだし、向こうの方がこの面子よりも格上だ。
成金丸出しの脂下がった下衆男だが、為人などどうでもいい。
必要なのは、今後役に立つかたたないかだ。
営業も兼ねて、いつもならばこの後は、考えるまでもなく真っすぐにそちらへと向かっている筈だろう。
――――だが、今日の聖は、何だか次の行動に移せないでいた。
(オレはいったい、どうしたんだろうな? 打算で動く事に、今になって嫌気でも差したってのか?)
かつて聖は、組から託された芸能事務所を立て直すために、散々男共を手玉に取ってここまで伸し上がってきた。
情よりも計算で行動して、ようやく達成した偉業だ。
そして、あの青菱史郎とも縁を切った。
だというのに、今になって何を……。
(ああ、そうか。ターさんに諭されたせいか)
数日前の出来事に思い至り、聖はフッと笑った。
『もう、holyは十分過ぎる程頑張ったんだし、そろそろ自分の為に行動してもいいんじゃないのか?』
多生はそう言うと、聖の為に暖かいココアを作ってくれた。
彼が間借りする事になったこのマンションは聖のマンションだし、使っている家具や全ての食材も聖の財布から出ている。
だが、我が物顔でマンションに居座る多生に、むしろ聖は幸せを感じていた。
愛しい相手とひっそり慎ましく暮らす事が、ずっと夢だったからだ。
――――その望む相手は、多生でも史郎でもなかったが。
しかし、これはこれで、嬉しい。
なんと言っても、多生は、聖が昔思いを寄せた相手であるのだから。
『……あんたにそう言ってもらえると、何だかくすぐったい気がするな』
多生から手渡されたカップに口を付けながら、聖は仄かな幸せを感じて微笑んだ。
成金丸出しの脂下がった下衆男だが、為人などどうでもいい。
必要なのは、今後役に立つかたたないかだ。
営業も兼ねて、いつもならばこの後は、考えるまでもなく真っすぐにそちらへと向かっている筈だろう。
――――だが、今日の聖は、何だか次の行動に移せないでいた。
(オレはいったい、どうしたんだろうな? 打算で動く事に、今になって嫌気でも差したってのか?)
かつて聖は、組から託された芸能事務所を立て直すために、散々男共を手玉に取ってここまで伸し上がってきた。
情よりも計算で行動して、ようやく達成した偉業だ。
そして、あの青菱史郎とも縁を切った。
だというのに、今になって何を……。
(ああ、そうか。ターさんに諭されたせいか)
数日前の出来事に思い至り、聖はフッと笑った。
『もう、holyは十分過ぎる程頑張ったんだし、そろそろ自分の為に行動してもいいんじゃないのか?』
多生はそう言うと、聖の為に暖かいココアを作ってくれた。
彼が間借りする事になったこのマンションは聖のマンションだし、使っている家具や全ての食材も聖の財布から出ている。
だが、我が物顔でマンションに居座る多生に、むしろ聖は幸せを感じていた。
愛しい相手とひっそり慎ましく暮らす事が、ずっと夢だったからだ。
――――その望む相手は、多生でも史郎でもなかったが。
しかし、これはこれで、嬉しい。
なんと言っても、多生は、聖が昔思いを寄せた相手であるのだから。
『……あんたにそう言ってもらえると、何だかくすぐったい気がするな』
多生から手渡されたカップに口を付けながら、聖は仄かな幸せを感じて微笑んだ。
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