彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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「そ、そうか。……しかし、もっと前向きに考えろよ? オレの代になったら、青菱は今よりさらに勢力を増すはずだ。今の内に、オレに取り入った方が利口だと思うぞ」
自分でも知らず知らずのうちに、心持ち上ずった声でそう告げていた。

 今日こそは、力づくでも何でもいいから、青菱に身柄を移す事に『はい』と言わせるつもりだったが。
 元気のない様子の聖を前にしてはいつもの調子が出ず、さすがの史郎も、それとなくうながすだけに留まる。

(今日に限って、マジでどうしたんだ?)

 いつもならここで『青菱なんざ冗談じゃねーよ。規模はデカいが、格なら天黄が上じゃないか』と、憎まれ口が返ってくるのだが。

 相変わらず、伏し目がちのままで大人しく座っている聖に、史郎は只々戸惑う。
 だが、とにかく、今日は聖を抱く為に呼んだのだ。

 父親を始め、幹部連中からも苦言を受けてしまい、聖を連日のように呼び寄せることが難しくなってしまった。

 故に、この機会は逃したくはない――――史郎は、そう気を引き締めた。

 テーブルに用意されていた酒へ手を伸ばしながら、片方の手は、そっと聖の聖の膝の上へと乗せる。

「何がいい? 特別に作ってやるぞ」
「……」
「おい」

 今度は無視かと、ピリッと眉が動くが。

 しかし、伏していた宝石のように綺麗な眼から、ポタリと真珠のような涙が零れ落ちるのを前にして、癇癖かんぺきも一気に引っ込んだ。

「ど――どうした!?」

 動揺する史郎を上目遣いに見遣りながら、聖は、零れ落ちる涙を手の甲で拭う。

「若頭。オレは辛いんです」
「つらい?」
「男の身でありながら、こうして囲われてあんたにオンナにされる……オレは、こんな事をやりたくて極道になったんじゃない。毎回力づくで押さえつけられて、服を剥かれて……これが平気な男が居ると思いますか?」
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