彼が恋した華の名は:4

亜衣藍

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 あくる日、史郎に呼び出された聖は、どこか様子が違っていた。

 いつもは反抗心そのままに、キツイ眼差しで史郎を睨みつけて来るのがお約束だったが、何故だか今日は伏し目がちで何処か元気がない。
 俯いたまま、大人しくひっそりとソファーへ座り込んでいると、細い肩が殊更目に付いて――史郎の胸が、言いようのない不安でざわめいた。

「どうした? なんだか、その……妙に大人しくないか」
「そんな事はありません」

 静かな声が、逆に不安を煽る。

(ずいぶんと雰囲気が違うな。何かあったのか?)

 史郎は訝し気に眉を寄せて、少し上ずった声で問い掛けた。

「もしかして、ウチの連中に何か言われたか?」
「――何か、とは?」
「何も無いなら、いいが……」

 史郎は戸惑う内心を隠して平素を装い、無造作に上着を脱ぐと、聖の座っているソファーへドカッと腰を下ろした。

「そうだ。お前、大学に真面目に通ってるらしいな? インテリヤクザにしようって、天黄組の方針か? でもな、青菱に正式に来てくれたら、そんな面倒な事は――」

「お誘いは嬉しいですが」

 言葉の先を制すると、聖は儚げに微笑んだ。

「オレは天黄正弘組長に拾われた身です。身寄りもなく、田舎から出て来たばかりで右も左も分からない野良猫のようなオレを、組長は一家に迎えて下さった。その時の御恩はまだ返してもいない。こんな中途半端な状態で、青菱には行けません」

 この拒絶のセリフが、いつものように・・・・・・・真っ向から叩き付けるような言い草なら、史郎は激高していただろうが。

 だが、嫋やかな乙女のように、弱々しく言葉を紡ぐ聖は本当に可愛らしくて。

 さしもの史郎も、聖から無理やり衣服を剝ぎ取り、強引にセックスに持ち込む気にはとてもなれない。

 調子が狂う・・・・・とは、まさにこの事だろう。
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