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2 First meeting
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そんな事、考えたことも無かった。
そもそも、男を虜にするなんて妖婦のような芸当が、根が堅物の自分に出来るとは思えない。絶対に不可能な気がする。
多生の言い分が信じられない様子の聖に、多生は自信満々に告げた。
「信じろよ」
「いや、信じろって言われても――」
「オレの見立てでは、お前は最上級の上物だ。その気になりさえすれば、大抵の男を手の平で転がす事が出来るだろう」
「そんなバカなっ」
苦笑交じりに否定しようとする聖であるが、多生は不意に真面目な顔になると、聖の眼を覗き込みながら断言した。
「マジな話だ。現に、女に困ってないあの青菱の若頭が、holyにすっかり夢中になって、見境無い我儘なガキみたいな有様になっているじゃないか? 立場上、天黄組は青菱の格下に就いているとはいえ、他所の組員を強引に召し上げて囲うなんて話、聞いた事もない」
確かにそうだろう。
幾ら何でも青菱は度が過ぎると、天黄組でも鬱憤が溜まっている。
聖は、組長である天黄正弘の秘蔵っ子であり、組内部でも信任が厚かった。
それなのに、青菱史郎によっていいように弄ばれているこの状況は、いつまでも看過できるものではないという声も多い。
「……皆、気に掛けてくれているが。だが、今の天黄組の力では……」
「今回の一件、昔気質の青菱の組長さんの耳にも入っちまって、家の中でもかなり揉めているようだぞ。若頭には、外腹の兄貴がいるからな。今回の醜聞で、この外腹の兄貴に水をあけられるかもしれないと、若頭の取り巻き連中はピリピリしている。青菱直系の、正式な跡取りの筈の史郎さんも、なかなか大変のようだ」
「そんなの、青菱の御家騒動だろう。オレには関係ない」
ピシャリと言い放つ聖に、多生は「まぁそうだけどな」と相槌を打つ。
「だが、この際奴等を手玉に取って、鮮やかに立ち振る舞うってのは良くないか?」
「オレには、向いてねぇよ」
「そんな事はないさ。だが、そうだな……一つ騙されたと思って、オレの言う通りに試しに一度だけ振舞ってみな。Holyの判断は、それからでいい」
熱心に進める多生を前にして、聖は、少しはその言い分に耳を傾けようかと考えを改めた。
この状況がマズい事は、充分に聖も自覚していたからだ。
――――男を虜にして、手の平で操る。
もしもそんな事が可能ならば、この暗澹とした状態から脱出できるかもしれない。
あの青菱史郎を手玉に取るなんてどうすればいいのか分からないが、多生が、その方法を教えてくれるなら、これは渡りに船というヤツではないだろうか。
(とにかく、毎回、睨み合って殴り合うようなセックスは御免だ。これがあと三年も続くなんざ身体がもたねぇ。この多生って男が知恵を授けてくれるってんなら、乗ってみるのも悪くないか)
……そう思考を巡らせると、聖は警戒心を解いた。
「分かったよ。それじゃあこっちも騙されるのを承知で、あんたの言う振舞いとやらを試してみようじゃねーか」
聖の了承を得ると、多生は邪気の無い笑みを浮かべた。
それが本当に無垢な子供のような笑顔で、聖は戸惑うが。
しかし、次に告げられた『振舞い』の内容を聞くと、再び聖の美しい顔には怒気の色が浮かんだ。
「何でオレが――」
「でも、試してみると自分で言ったじゃないか」
「う……」
「大丈夫、お前さんには才能がある。男ってのは猿並みに単純な生き物なんだぜ? 言われた通り、やってみなよ」
多生の太鼓判に、聖は不承不承従う事にした。
そもそも、男を虜にするなんて妖婦のような芸当が、根が堅物の自分に出来るとは思えない。絶対に不可能な気がする。
多生の言い分が信じられない様子の聖に、多生は自信満々に告げた。
「信じろよ」
「いや、信じろって言われても――」
「オレの見立てでは、お前は最上級の上物だ。その気になりさえすれば、大抵の男を手の平で転がす事が出来るだろう」
「そんなバカなっ」
苦笑交じりに否定しようとする聖であるが、多生は不意に真面目な顔になると、聖の眼を覗き込みながら断言した。
「マジな話だ。現に、女に困ってないあの青菱の若頭が、holyにすっかり夢中になって、見境無い我儘なガキみたいな有様になっているじゃないか? 立場上、天黄組は青菱の格下に就いているとはいえ、他所の組員を強引に召し上げて囲うなんて話、聞いた事もない」
確かにそうだろう。
幾ら何でも青菱は度が過ぎると、天黄組でも鬱憤が溜まっている。
聖は、組長である天黄正弘の秘蔵っ子であり、組内部でも信任が厚かった。
それなのに、青菱史郎によっていいように弄ばれているこの状況は、いつまでも看過できるものではないという声も多い。
「……皆、気に掛けてくれているが。だが、今の天黄組の力では……」
「今回の一件、昔気質の青菱の組長さんの耳にも入っちまって、家の中でもかなり揉めているようだぞ。若頭には、外腹の兄貴がいるからな。今回の醜聞で、この外腹の兄貴に水をあけられるかもしれないと、若頭の取り巻き連中はピリピリしている。青菱直系の、正式な跡取りの筈の史郎さんも、なかなか大変のようだ」
「そんなの、青菱の御家騒動だろう。オレには関係ない」
ピシャリと言い放つ聖に、多生は「まぁそうだけどな」と相槌を打つ。
「だが、この際奴等を手玉に取って、鮮やかに立ち振る舞うってのは良くないか?」
「オレには、向いてねぇよ」
「そんな事はないさ。だが、そうだな……一つ騙されたと思って、オレの言う通りに試しに一度だけ振舞ってみな。Holyの判断は、それからでいい」
熱心に進める多生を前にして、聖は、少しはその言い分に耳を傾けようかと考えを改めた。
この状況がマズい事は、充分に聖も自覚していたからだ。
――――男を虜にして、手の平で操る。
もしもそんな事が可能ならば、この暗澹とした状態から脱出できるかもしれない。
あの青菱史郎を手玉に取るなんてどうすればいいのか分からないが、多生が、その方法を教えてくれるなら、これは渡りに船というヤツではないだろうか。
(とにかく、毎回、睨み合って殴り合うようなセックスは御免だ。これがあと三年も続くなんざ身体がもたねぇ。この多生って男が知恵を授けてくれるってんなら、乗ってみるのも悪くないか)
……そう思考を巡らせると、聖は警戒心を解いた。
「分かったよ。それじゃあこっちも騙されるのを承知で、あんたの言う振舞いとやらを試してみようじゃねーか」
聖の了承を得ると、多生は邪気の無い笑みを浮かべた。
それが本当に無垢な子供のような笑顔で、聖は戸惑うが。
しかし、次に告げられた『振舞い』の内容を聞くと、再び聖の美しい顔には怒気の色が浮かんだ。
「何でオレが――」
「でも、試してみると自分で言ったじゃないか」
「う……」
「大丈夫、お前さんには才能がある。男ってのは猿並みに単純な生き物なんだぜ? 言われた通り、やってみなよ」
多生の太鼓判に、聖は不承不承従う事にした。
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