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2 First meeting
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何となく理解していると、多生が再び聖の名を口にするが。
「し……ひぃじりー……Shit! 難しいな、お前の名前は」
やはり、自分でも上手く発音が出来ていない事を自覚しているらしい。
すると、多生は何かアイディアを思いついたように、濃い緑の瞳を輝かせた。
「そうだ、漢字はどう書くんだ? 教えてくれ」
その問い掛けに、聖は困惑しながらも手を伸ばしてペンを取り、サイドテーブルに置いてあった用紙へ自分の名を書く。
それを見て、多生は『この字には、どういう意味があるんだ』と訊いてきた。
「え……『聖者』って意味だけど」
素っ裸で何を言わせるんだと戸惑いながらも、正直に教える聖である。
すると、多生はニッコリと笑った。
「じゃあ、holyだな」
「は?」
「今日からお前のことはholyと呼ぼう」
「はぁ!?」
当然であるが、聖はこれに猛反発した。
だが、目の前で困ったような顔をされて、悄然と肩を落とされては、やはり最後まで反抗しきれない。
しょんぼりした多生は体の大きな子供のようで、史郎に対する時のように敵意を向け続ける事は難しかった。
聖には、そんな人のいいところがあった。
「もう、分かったよ! 何でも好きな名前で呼べばいいだろう!」
とうとう折れた聖に、多生は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、holy。それじゃあ、さっきの続きをしようか」
「なに?」
「男同士の、セックスのレッスンだ。どうにかして上達させろって、青菱の若頭に命令されたんだよ」
と、多生はとんでもない事を言い出した。
呆気にとられる聖であるが、その理由を聞き、成る程なと納得した。
つまり、このままでは史郎も聖も無意味に傷付け合うだけで、行き着く先は刃傷沙汰になり兼ねないというのだ。
とくに、激情型の史郎は苛立つ感情を爆発させて、近い内に自制が利かなくなりそうだという。
だから、聖の方で、どうにか上手く史郎を受け入れろという事らしいが。
理由に納得したからといって『ハイそうですか』という訳には行かない。
「そんなの、あの野郎がマジで救いようがないくらいド下手糞だって話じゃねーか。あいつの方を先にどうにかしろよ。こっちの所為にするんじゃねぇ」
至極尤もな事を言う聖であるが、多生によると、それがそうも行かないと言うのだ。
「若頭も、女相手なら百戦錬磨のツワモノだが、男の方は全く勝手が分からないようだ。しかし、それを認めるには男のプライドってヤツが邪魔するらしい」
「だから、オレにどうにかしろって? ふざけんのもいい加減にしろ!」
当然ながら、この無茶な言い分には怒る聖である。
「いつまでも与太話に付き合ってやる気はない。もう帰らせてもらう。オレの服はどこだ?」
そう言いながらベッドから身を起こす聖に、多生はゆったりと話しかけた。
「その言い分も分かるが、考えてみろよ。お前さん今まで、青菱の若頭以外の旦那衆にも、言い寄られた事があるんじゃないのかい?」
「……」
「図星だろう。それだけのルックスだ、この先も旦那衆が放っておくわけがない。特に、この業界はそっちの方が趣味ってぇ輩も多い。実際オレも、何度か男娼を仲介した事があるからな」
キッと睨んで来た聖に、多生は『まぁ、話は最後まで聞きなよ』と手を振る。
「この先を考えるなら、オレのレクチャーを受けた方が良いぞ。男共にいいように弄ばれて、薬漬けにされてバラ売りされたくなければな」
なんとも恐ろしい事をさらりと言い、多生は更に続ける。
「holyが盃を貰っている天黄組は、大分弱体化していると聞く。現に、青菱会の圧力に負けてお前を差し出したワケだしな。これから先を考えると、いつまでholyを庇い切れるか――それに、天黄組の組長に迷惑を掛けたくないだろう?」
「それは、そうだが」
「なら、決まりだ。男を虜にして、好きなように手玉に取って派手に生きる道を選べ。男に振り回される人生より、そっちの方がずっと良い」
「男を虜に……?」
「し……ひぃじりー……Shit! 難しいな、お前の名前は」
やはり、自分でも上手く発音が出来ていない事を自覚しているらしい。
すると、多生は何かアイディアを思いついたように、濃い緑の瞳を輝かせた。
「そうだ、漢字はどう書くんだ? 教えてくれ」
その問い掛けに、聖は困惑しながらも手を伸ばしてペンを取り、サイドテーブルに置いてあった用紙へ自分の名を書く。
それを見て、多生は『この字には、どういう意味があるんだ』と訊いてきた。
「え……『聖者』って意味だけど」
素っ裸で何を言わせるんだと戸惑いながらも、正直に教える聖である。
すると、多生はニッコリと笑った。
「じゃあ、holyだな」
「は?」
「今日からお前のことはholyと呼ぼう」
「はぁ!?」
当然であるが、聖はこれに猛反発した。
だが、目の前で困ったような顔をされて、悄然と肩を落とされては、やはり最後まで反抗しきれない。
しょんぼりした多生は体の大きな子供のようで、史郎に対する時のように敵意を向け続ける事は難しかった。
聖には、そんな人のいいところがあった。
「もう、分かったよ! 何でも好きな名前で呼べばいいだろう!」
とうとう折れた聖に、多生は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう、holy。それじゃあ、さっきの続きをしようか」
「なに?」
「男同士の、セックスのレッスンだ。どうにかして上達させろって、青菱の若頭に命令されたんだよ」
と、多生はとんでもない事を言い出した。
呆気にとられる聖であるが、その理由を聞き、成る程なと納得した。
つまり、このままでは史郎も聖も無意味に傷付け合うだけで、行き着く先は刃傷沙汰になり兼ねないというのだ。
とくに、激情型の史郎は苛立つ感情を爆発させて、近い内に自制が利かなくなりそうだという。
だから、聖の方で、どうにか上手く史郎を受け入れろという事らしいが。
理由に納得したからといって『ハイそうですか』という訳には行かない。
「そんなの、あの野郎がマジで救いようがないくらいド下手糞だって話じゃねーか。あいつの方を先にどうにかしろよ。こっちの所為にするんじゃねぇ」
至極尤もな事を言う聖であるが、多生によると、それがそうも行かないと言うのだ。
「若頭も、女相手なら百戦錬磨のツワモノだが、男の方は全く勝手が分からないようだ。しかし、それを認めるには男のプライドってヤツが邪魔するらしい」
「だから、オレにどうにかしろって? ふざけんのもいい加減にしろ!」
当然ながら、この無茶な言い分には怒る聖である。
「いつまでも与太話に付き合ってやる気はない。もう帰らせてもらう。オレの服はどこだ?」
そう言いながらベッドから身を起こす聖に、多生はゆったりと話しかけた。
「その言い分も分かるが、考えてみろよ。お前さん今まで、青菱の若頭以外の旦那衆にも、言い寄られた事があるんじゃないのかい?」
「……」
「図星だろう。それだけのルックスだ、この先も旦那衆が放っておくわけがない。特に、この業界はそっちの方が趣味ってぇ輩も多い。実際オレも、何度か男娼を仲介した事があるからな」
キッと睨んで来た聖に、多生は『まぁ、話は最後まで聞きなよ』と手を振る。
「この先を考えるなら、オレのレクチャーを受けた方が良いぞ。男共にいいように弄ばれて、薬漬けにされてバラ売りされたくなければな」
なんとも恐ろしい事をさらりと言い、多生は更に続ける。
「holyが盃を貰っている天黄組は、大分弱体化していると聞く。現に、青菱会の圧力に負けてお前を差し出したワケだしな。これから先を考えると、いつまでholyを庇い切れるか――それに、天黄組の組長に迷惑を掛けたくないだろう?」
「それは、そうだが」
「なら、決まりだ。男を虜にして、好きなように手玉に取って派手に生きる道を選べ。男に振り回される人生より、そっちの方がずっと良い」
「男を虜に……?」
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