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2 First meeting
2-2
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舎弟はゴクリと息を吞むと、上ずった声で「はい」と返事をした。
史郎は指示を出したらそれまでと言うように、憤りながらも退室していった。
また聖を痛めつけてしまったという後味の悪い気分を払拭するために、これから違う女の所へ行って鬱憤を発散しようというところか。
だが、一人残された舎弟は、高価な白磁のように輝いている滑らかな肉体を前にして、激しく勃起していた。
「う、うぅ……」
殆ど無意識に、舎弟は震える手で、その身体へ触れようとするが――――
「おや? 勝手に若頭のイロに手を出したら、あんた殺されますよ」
背後から声を掛けられ、男は文字通りビクリと飛びあがった。
「だ、誰だ!」
「東山事務所さんトコロで女衒やらしてもらってる、多生ってもんです。それにしても、いけませんやねぇ」
「お、オレは、若頭に命令されてっ」
「はいはい、分かりましたよ。でもそれなら、オレも命令された口でね」
ひょっこりと部屋へ姿を現した笊川多生はそう言うと、ニカリと笑った。
「若頭のおっしゃるには、その子は男の抱かれ方ってもんを全く理解してないらしい。だから、ついついこっちも毎回酷い事をしてしまうと」
多生はそう言うと、手のひらをヒラヒラと振った。
「って事で、受け入れ方を教育してやれって命令されたんですよ」
「教育って――」
「許可は出てます。その子は、いったんオレの根城へ引き取りますよ。ここじゃあ道具もそろってねぇし。何なら、若頭に確認を取ってください」
そう言われては、反論する事は出来ない。
第一、この舎弟は本当にただの下っ端だった。
だが、自称女衒のこの多生という男の方は、青菱内部でもソコソコ名の通るやり手である。抗う事など出来ない。
「わ、分かりました……」
男は、不承不承身を引いた。
多生はニヤリと笑うと、意識を失ったままの聖をシーツで包み、そのまま抱え上げる。
「……見た目よりも、大分軽いねぇ」
ポツリと呟くと、多生はその場を後にした。
◇
重い瞼を開けると、知らない天井が目に入ってきた。
青菱の屋敷でも、天黄の自室でもない。
いったいここは、何処だろうか?
「う……」
寝返りと同時に思わず出た呻き声に、これまた知らない声が返ってきた。
「お? 目覚めたかい?」
「――」
「警戒しなくていい。オレはただ、身体の手当てをしてやっただけだ」
そう言うと、男はニコリと微笑んで来た。
――――初めて見る顔だ。
日本人にしては彫が深くて体格もいい。
多分、混血だろう。
洋画に映る、俳優のようなツラをした粋な伊達男のようだ。
「あんた、何モンだ?」
固い声で訊いたところ、男はゆっくりとした動作で、聖が横たわっていたベッドへと腰を下ろして来た。
ビクリと身体を身体を固くした聖に、男は再びゆったりと微笑みかける。
「オレの名前は笊川多生だ。笊川って呼びにくいだろう? だから、タオでいい」
「タオ……」
よく見ると、男はやはり異国の血が入っているらしく、瞳が濃い緑色だった。
多生という、少し変わった名前もその所為だろうか?
そんな聖の頭の中が分かったように、タオはくしゃりと笑った。
「お前だって、オレと同じだろう?」
「?」
「その瞳。ブラックオパールのような、変わった色をしている。オレと同じ、異邦人の色だ」
多生の指摘に、聖は戸惑いながら身を起こした。
史郎は指示を出したらそれまでと言うように、憤りながらも退室していった。
また聖を痛めつけてしまったという後味の悪い気分を払拭するために、これから違う女の所へ行って鬱憤を発散しようというところか。
だが、一人残された舎弟は、高価な白磁のように輝いている滑らかな肉体を前にして、激しく勃起していた。
「う、うぅ……」
殆ど無意識に、舎弟は震える手で、その身体へ触れようとするが――――
「おや? 勝手に若頭のイロに手を出したら、あんた殺されますよ」
背後から声を掛けられ、男は文字通りビクリと飛びあがった。
「だ、誰だ!」
「東山事務所さんトコロで女衒やらしてもらってる、多生ってもんです。それにしても、いけませんやねぇ」
「お、オレは、若頭に命令されてっ」
「はいはい、分かりましたよ。でもそれなら、オレも命令された口でね」
ひょっこりと部屋へ姿を現した笊川多生はそう言うと、ニカリと笑った。
「若頭のおっしゃるには、その子は男の抱かれ方ってもんを全く理解してないらしい。だから、ついついこっちも毎回酷い事をしてしまうと」
多生はそう言うと、手のひらをヒラヒラと振った。
「って事で、受け入れ方を教育してやれって命令されたんですよ」
「教育って――」
「許可は出てます。その子は、いったんオレの根城へ引き取りますよ。ここじゃあ道具もそろってねぇし。何なら、若頭に確認を取ってください」
そう言われては、反論する事は出来ない。
第一、この舎弟は本当にただの下っ端だった。
だが、自称女衒のこの多生という男の方は、青菱内部でもソコソコ名の通るやり手である。抗う事など出来ない。
「わ、分かりました……」
男は、不承不承身を引いた。
多生はニヤリと笑うと、意識を失ったままの聖をシーツで包み、そのまま抱え上げる。
「……見た目よりも、大分軽いねぇ」
ポツリと呟くと、多生はその場を後にした。
◇
重い瞼を開けると、知らない天井が目に入ってきた。
青菱の屋敷でも、天黄の自室でもない。
いったいここは、何処だろうか?
「う……」
寝返りと同時に思わず出た呻き声に、これまた知らない声が返ってきた。
「お? 目覚めたかい?」
「――」
「警戒しなくていい。オレはただ、身体の手当てをしてやっただけだ」
そう言うと、男はニコリと微笑んで来た。
――――初めて見る顔だ。
日本人にしては彫が深くて体格もいい。
多分、混血だろう。
洋画に映る、俳優のようなツラをした粋な伊達男のようだ。
「あんた、何モンだ?」
固い声で訊いたところ、男はゆっくりとした動作で、聖が横たわっていたベッドへと腰を下ろして来た。
ビクリと身体を身体を固くした聖に、男は再びゆったりと微笑みかける。
「オレの名前は笊川多生だ。笊川って呼びにくいだろう? だから、タオでいい」
「タオ……」
よく見ると、男はやはり異国の血が入っているらしく、瞳が濃い緑色だった。
多生という、少し変わった名前もその所為だろうか?
そんな聖の頭の中が分かったように、タオはくしゃりと笑った。
「お前だって、オレと同じだろう?」
「?」
「その瞳。ブラックオパールのような、変わった色をしている。オレと同じ、異邦人の色だ」
多生の指摘に、聖は戸惑いながら身を起こした。
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